豊島逸夫の手帖

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金市場にも春一番

2005年2月23日

原油価格が51ドルへ急反発。それを嫌気してNY株式は6ヶ月振りの下げ幅で急落。前週発表の米卸売物価上昇率も予想外の上げを記録し、インフレ懸念再燃かと囁かれていた矢先のことだった。そこに、外為市場では韓国が外貨準備を非ドル通貨へ多様化するという報道が伝わり、ドル急落。韓国は日本、中国、台湾に次ぎ、2000億ドルの外貨準備を保有するが、米ドルを売却し豪ドルやカナダドルへシフトさせたい、という意向のようだ。つくづく、米ドルへの信認も落ちたものだと感じる。

ドル離れがドミノ現象のように拡大している。時あたかも、ブッシュが欧州歴訪の旅に出ているが、欧米首脳の交わす外交辞令が益々うそっぽく聞こえてくる。米仏関係も仮面の夫婦状態と揶揄されるなど、市場の反応は至ってクールなものだ。そもそも、欧州人はブッシュが好きではない。できれば、ケリーに勝って欲しかった。でも、米国民がブッシュを選択した以上、付き合わざるを得ない。とはいえ、性格不一致により、日常生活では軋轢があちこちで生じる。テロリズムとかアラブ世界への対応が良い例だ。

ブッシュはテロの根源は民主主義の欠如であり、力でアラブの民主化を進めるべきとする。対して、欧州はテロの根源を貧困とする。アラブ世界も陸続きのお隣さんであり、近所付き合いも無碍にできない。このような根本的な考え方の違いが、実は外為市場のドル離れの背景にあることを日本人も改めて認識する必要があろう。

金利差だけを見れば、短期的にはドルは買いである。しかし、それを超えた政治的、文化的要因が作用している。投機的ドル売買を繰り返すホットマネーだけが報道され目立つが、もっと根源的なマネーフローの変流が生じているのだ。前者が台風による大波の如く、激しいが海面に近い部分だけが寄せて引くのに対し、後者は津波のように、海面から海底までがそのまま陸地に上がって移動してゆくと言えようか。

さて、原油高、株安、ドル安、それに加え、前回指摘した新たな地政学的要因の浮上と金買いを促す要件が四つも同時に揃ったことになる。

春一番が、金市場には一足早く訪れたようだ。

2005年