2005年3月22日
金鉱山業界は数年前からM&Aの嵐で、ライブドアとフジテレビの買収騒ぎなど子供の喧嘩ていどにしか思えない。この騒動は未だに決着はついていない。
その一部始終を見ていると本当に喧嘩腰のやりあいである。徹底的に相手を叩く。言葉使いも放送禁止用語の連発で、テレビ報道でもピーという音声カットが続く有様だ。何もそこまで言わなくてもというような形容詞、副詞が飛び交う。
この場合のライブドアに当たるのはハーモニー社という南アの業界では新参の暴れん坊異端企業である。徹底的なコストカットで閉山寸前の鉱山を蘇らせてきた。"従業員の気持ち"などという甘い言葉のかけらも無い非情な合理化を追求し、ついに世界第六位の生産量を誇る金鉱山にのし上がった。その勢いをかって、同じ南アの老舗ゴールドフィールズ社(世界第四位)に敵対的買収を仕掛けたのだ。このゴールドフィールズ社がフジテレビに当たろうか。これまでの権益に甘んじ、保守的でどちらかといえば、従業員を思いやる経営手法であった。(それでも20年前の家族的南ア鉱山業界から見ればはるかにドライではあるが)。
ハーモニー社の敵対的買収宣言は、時間外取引で或る日突然ではなく、或る日突然開かれた記者会見での宣戦布告で始まった。それも、非常に具体的に買収による株主のメリットを詳述している。開口一番"ゴールドフィールズ社の取締役は海外出張でファーストクラスを使っている。我が社では全員エコノミーだ。それにより、節約できるコストは全て株主に還元する"。それから箇条書きでゴールドフィールズ社の経費カット可能な項目を全て列記し、詳述する。至って具体的で分かりやすい。(もっとも、そのなかでこともあろうに弊社ワールドゴールドカウンシルへの出資もカットだというのには参ったけどね。)
勿論ゴールドフィールズ社も黙っていない。徹底抗戦である。40歳代のハーモニー社経営陣と60歳に近いゴールドフィールズ社経営陣ががっぷり四つに組み土俵上で戦う。かたや小僧呼ばわり、かたやじじい呼ばわりである。
その一部始終を株主は見聞きしてどちらにつくか決める。株主も至ってドライである。その陰で従業員は泣いている。
ハナシは飛ぶが、今、米国経済がまあ順調な経済成長を続けているのに米国サラリーマンの給料が増えない、つまり労働分配率が伸びないということがエコノミストの間で指摘されている。好況時でさえ更なる企業体質強化のためにはリストラを続行する米企業をみるにつけ、"社員の気持ち"とか"社員はいやだと言っている"などと臆面もなく発言するフジテレビ会長や日本放送社長が温室育ちの甘えん坊に見えてくる。
かといって、カネが全てで、そのためには何をやってもいいという訳ではない。コンプライアンス(規律遵守)やガバナンス(企業統治)などは平均的日本企業の何倍も強化されている。従業員の行動はがんじがらめで縛られており、中で働くと実に窮屈である。これは、エンロンやワールドコムからの反省による動きと言える。
日本国中がライブドア騒ぎの渦中にある間、欧米で日本に関する経済関連報道は、1)国会での外資開放先送り決定、2)ソニー米人社長誕生、3)小泉首相の外準分散化発言、4)ミスター円・榊原氏のリーマン"強制"辞任、であった。ライブドアの一件は未だその程度のことで大騒ぎしているのかよ という論調である。
筆者もM&Aという黒船騒動に揺れる日本経済が実は未だに鎖国状態にあったことを改めて思い知らされた次第である。