豊島逸夫の手帖

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金相場の流れは変わったか?

2005年2月14日

現在、金価格が410ドル台まで下げ、短期的に軟調である。その理由は以下に要約できる。

(1)ドル反発

FF金利が予想通り2.5%まで上昇したことにより、他通貨との金利差が拡がり、ドル買いのメリットが出てきた。
グリーンスパンが経常赤字削減に関して楽観的な見通しを述べた。更に、ブッシュが財政赤字に積極的に取り組む姿勢を予算案で打ち出した。その結果、双子の赤字削減に向けて"トンネルの向こうに光が見え始めた。"

(2)地政学的リスクやや後退

イラク選挙が、懸念された同時多発テロも起きず、投票率もまずまずのなかでとりあえず終わり、民主化の第一歩が印された。
パレスチナの新リーダー アッバス議長とイスラエル シャロン首相の間で4年ぶりの停戦合意が実現した。米国 ライス新国務長官も中近東調停に積極的姿勢を見せた。

(3)IMF金売却案の再浮上(※)

しかしながら、これで流れが変わったわけではない。 これまで金価格の上昇トレンドを形作ってきた構造的要因は依然残る。各論で吟味してみよう。

●ドル安の流れは変わったか。

ブッシュの予算案は"穴だらけで有名なスイスチーズ"とか"かくれんぼ予算"とか揶揄されている。2009年までに財政赤字を半減するという公約を一見達成可能に見せるため、隠し予算がチーズの穴みたいにあちこちに仕掛られている というのだ。例えば、イラク駐留予算。現予算案は今年9月でイラク撤退という前提で組まれており、それ以降のイラク関係支出は含まれていない。その額は年間700億ドルに達する。それらの隠し予算を入れると、2009年の財政赤字は目標2500億ドルに対し、4000億ドルを超えるとされる。
経常赤字の意味ある削減を実現するためには、為替による調整より根源的な構造的調整が必要である。それは、米国国民の貯蓄率を上げることだ。"出かけるときは忘れずに"クレジットカードを持ち歩く米国民の消費性向の高さ、その結果としての民間の債務累積が是正されなければ、経常赤字の病巣にメスを入れたことにはならない。

●地政学的リスクは後退したか。

本当のイラクの民主化はこれから始まる。まだまだ米軍の銃口下での民主化(Democracy at gun-point)という状況は変わらない。というより変われない。イラク国民は部族を超えて皆アメリカが大嫌いだが、かといってアメリカ軍抜きの民主化への道も考えられない。
パレスチナ和平もこれからが正念場である。欧米金市場はユダヤ系ディーラーが多いのだが、彼らは総じて冷ややかである。まずは、アッバス議長のお手並み拝見という姿勢だ。ハマスの銃声一つで振り出しに戻る危うさがある。
以上の市場環境のなかで、金価格は当面下値模索となろうが、いずれ新高値に向けての二回目の助走が始まろう。NY先物買い残高も昨年末のピーク時に比し、四分の一にまで激減した。ここまで市場内部が軽くなると、新規買いも入りやすい。しばらくは音なしの構えでも、一旦動意づくと早いというのが最近の特徴である。昨年末まで双子の赤字削減は容易ではないと囃してドルを売っていたヘッジファンドが、今月は手のひらを返したように、赤字は問題ではないと楽観的観測に転じてドルを買い戻しているのを見ていると、来月はどっちに転ぶのか見物である。個人投資家の立場からは、仕手筋の霍乱コメントに惑わされないようにしたいものだ。


最近ふたたび話題になっているIMF金売却案とは、最貧国等救済のためにIMFが保有する金を売却して、債務を帳消しにしようというもの。IMF保有金は'71年以来1オンス40ドルで計上されたままであるため、その一部を簿価でいったん救済国へ売却、同時にIMFは同量の金を同国から市場価格で買戻すことで、同国はその売却益を債務返済に充てられるというもの。市場価格を400ドルとすれば、400ドル-40ドル=360ドル×売却重量分が債務返済に充てられる。ただし、これは同時売買で行われるものなので、IMFの保有金(現在3000トン強)が市場に放出される訳ではなく、IMFの保有金の一部が評価換えされるだけであることから、金市場への影響は無いと見られている。実際、'99~'00年にかけて、ブラジルとメキシコのIMFへの債務を減らすために、IMFの保有金のうち360トンを両国へ簿価の40ドルで売却、そして同時にIMFは同量の金を両国から市場価格(当時360ドル)で買い戻した前例がある。この同時売買により、両国は売買益をIMFへの債務返済に充てることができたし、金市場への影響も皆無であった。「有事の金」を有効活用する好例といえるのだが、このことを材料に「金価格下落」を囃し立てる仕手筋が存在するので、冷静に判断することが大切であろう。
 
2005年