2005年7月22日
今回の人民元2%切り上げは、専門的には、クローリング・ペッグ 或いはスライディング・ペッグへの移行と見られる。人民元と米ドルのペッグ(固定化)を(0.3%の変動幅を許容とはいえ)実質的に維持するものの、徐々に、小幅に その固定レートを切り上げてゆくというものだ。その利点は国際経済学の教科書によれば、切り上げによるマクロ経済へのショックを最小限に食い止めることができること。今の状況下では、中国政府の立場にたてば、時間稼ぎができるとも言えよう。
その欠点は、継続的再切り上げがミエミエなので、それを見込んだ更なる為替投機を助長することだ。
既に、それを当て込んだ巨額のホットマネーが中国へ流入し、その多くが、不動産へ向かい、バブル現象を惹き起こしている。
目先予想される最初の動きは、そのホットマネーが、当面、予想された材料出尽くしということで、一斉に利益確定の人民元売りに走ること。けれども、その売りが一巡すれば、更なる切り上げを見込んで、第二波の人民元買いラッシュが始まるだろう。
かくして、中国政府は、一回ぽっきりの大幅切り上げを避け、段階的小幅切り上げを選択したことにより、国際金融市場の投機筋に格好の餌を提供したことになる。中国発のドル相場のボラティリティーが増幅されたことは間違いない。
さて、その金市場への影響だが、以下の点に集約される。
1. 人民元切り上げは中国国内金価格の下落を意味する。しかも、更なる切り上げが読める状況では、投資家は当面買いを控えるだろう。中国の金市場関係者と話していると、せっかく四大銀行の金投資業務を解禁されたのに、これでは投資意欲が萎むと嘆く。一方で、不動産バブルが破綻すれば、国内株式も冴えない状況下では、過剰流動性の一部が金市場へ流入すると読むアナリストもいる。プロのディーラーたちは、ボラティリティーが増すことにより、アービトラージ(裁定取引)のチャンスが増えると期待する。更に、宝飾業者は、価格弾力性の高い(価格に敏感な)金宝飾品の需要が高まると見込む。総じて、短期的買い控えはあるものの、国内金市場の活性化に寄与することは間違いなさそうだ。
2. 金価格への影響は、ドル安=金買いの従来型反応により、強含み。昨晩(7月21日)の欧米市場は、ロンドン爆破テロ第二波という材料も重なり、トリプル安(株、債券、ドル)且つ原油安のなか、金だけが上昇する(前日比3ドル高の425ドル)という教科書どおりの反応を見せた。とはいえ、当面の利益確定のための人民元売り(ドル買い)も予想されるなかで、金価格も上がったとはいえ、更に買い進むほどのエネルギーは感じられない。市場内部を見ても既に夏休みモードである。総じて言えることは、410ドルへの下げも視野に入り目先やや弱気に傾いていた市場が、下げづらくなったということか。