豊島逸夫の手帖

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金価格460ドル突破

2005年9月20日

上げが加速化してきた。NYの先物ベースでは470ドルまで示現している。市場にはなお先高感が強い。500ドルも視野に入ってきた。従来の急騰局面とは異なる様相だからだ。

高値圏では従来激減していた実需が、インド、中東を中心に絶好調である(既報)。しかも、インドはこれから婚礼シーズンを迎える。Demand-driven=実需が引っ張る上昇相場という珍しい相場だ。これまでは、高値圏になると、先物買い、現物売りが業界の常識だったが、今回は先物も現物も買いの方向である。

需要面では、年金の参入も効いている。NYの先物買い残高(ネット)が300トンとか400トンという数字は、従来の基準では、かなりの頭が重い展開を示唆する。しかるに、今回は、その高水準から、少しでもこなされて減少するや、すかさず買いが入る。明らかに市場の裾野が広がり、流動性が増加していることの証だ。その主体が金を代替投資の一商品と看做す年金ファンドである。

従来は、ドル高に転じると、それが反落のきっかけになった。今回は、ドルと金の逆連関が再び薄れ始めている。ユーロが憲法問題で挫折して以来、ドル-金の逆相関が出たり引っ込んだり。ドル離れしたマネーがユーロにも不安を感じ、行く先を求めて、金市場にも流入している。背景には世界的過剰流動性があるのだ。

従来は、価格が急騰すると、一部の中央銀行の売りが集中豪雨のように発生したものだ。これも、今回は様相が違う。というのは、アルゼンチンが金を逆に購入しているのだ。2004年に54.9トンの金を積み増し注目されてきた同国だが、最近のロンドンの金フォーラムで、更に買いに積極的で、しかも、他のラテンアメリカ諸国にも同様の動きが見られると発言している。一時は金売却に走った同国の戦略変更に理由を聞かれて、(1)危機の備えとしてポートフォリオ分散が必要。(2)金の流動性が実証された。過去、大量の金売買を混乱無く実行できたこと、などを挙げている。

原油高騰もついに効いてきた。これまでは、金価格が原油高から遊離した感もあったが、カトリーナが流れを変えた。一般市民レベルまで原油高が肌で感じられる状況になり、個人投資家の間でインフレ懸念が急速に強まっているからだ。また、カトリーナというハリケーン災害がテロと同様のポートフォリオリスクとして意識され始めていることも無視できない。

利上げもカトリーナの影響で4%まで折り込まれていたのが、ひょっとすると3.75%で当面打ち止めという観測も出始めた、市場は一旦折り込まれた前提が崩れるとき鋭く反応する。

最後に、一時は陳腐化した地政学的要因も、イラク紛争がイラン、シリア、イスラエルを巻き込む拡大地域紛争の可能性がちらつき始め、次元を変えて、ジワジワ浮上している。

以上見てきたように、更なる上昇を予感させる相場附きだが、500ドルに近づくと、要注意である。筆者は、500ドルを体験している今や数少ないディーラー経験者だが、そこでは、逆を突かれたトレーダーのパニック的売買などでファンダメンタル以上にオーバーシュートするものだ。特に、近年はオプションディーラーの影響が強い。例えば、500ドル以上の売りを(まさかと思って)コミットしてきた連中などは、いまや真っ青であろう。

更に、500ドルにでもなれば、さすがに、実需もとりあえず引っ込むし、中銀売却も増えよう。投資家の利益確定売りも出てくる。従って、前回も注意したように、パッツと上がって、ドンと落ちる、ボラティリティーの大きな展開になろう。でも、底は浅いよ。底値は着実に切りあがってきている。なんといっても、日本だけでなく、世界中どこでも、金に関しては、"下がったら買う"と言うヒトだらけだ。そういう相場はなかなか下がらないものなのだよ。

2005年