豊島逸夫の手帖

Page056

バーナンキ効果

2005年10月25日

バーナンキ氏のFRB時期議長指名は、金市場にとって長期的には強材料になろう。短期的には、調整モードなので、反応薄ではあるが。

バーナンキ氏は、指名発表の記者会見で、米国経済のprosperity(繁栄)とstability(安定)のために全力を尽くすと語っている。prosperityを重視すれば、利上げピッチを緩め、経済成長に優先順位を置く金融政策運営となる。これは、金にとって上げ要因。stabilityを重視すれば、利上げを粛々と進め、インフレ懸念の沈静化に優先順位を置くことになる。これは金下げ要因となる。

市場が注目するのは、バーナンキ氏の手綱さばきが、どちらを重視するのかということだ。

そこで、市場関係者が思い出すのは、バーナンキ氏の過去の発言集。特に、印象深い言葉が"デフレ退治のためには、おカネをヘリコプターからばら撒くことも辞さない"というコメントだ。まだ、米国経済にデフレリスクが漂っていた頃の発言である。

また、彼は、有名なインフレターゲット論者でもある。インフレターゲットというのは、実は、中央銀行の仕事は第一義的にインフレファイターであり、そのための目標指標を明確に数値で示す、ということだ。本来は、インフレとの戦いに対してタカ派、強硬派のスタンスなのだ。しかし、市場の解釈はやや異なる。インフレ値を数値として目標化すると、実際には、その上限値をオーバーシュートしがちである、という可能性のほうを強く見る。つまり、金融を緩めすぎてインフレを招きがちである、と解釈するのだ。

以上の理由で、金市場はバーナンキ氏指名をmildy bullish(緩やかな強気材料)と受け止めている。勿論、バーナンキ氏の手腕を云々するのは時期尚早である。もし、バーナンキ氏が、卓越した才能を発揮し、米国経済にprosperityとstabilityを同時にもたらせば、Goldilocks Economy(インフレでもデフレでもない米経済の理想的均衡状態)の実現となり、金のヘッジ資産としての出番はなくなる。今後の市場は過去の数々のグリーンスパン発言同様に、バーナンキ発言に振り回されることになろう。

2005年