豊島逸夫の手帖

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浅い調整局面入り

2005年10月18日

しばらくご無沙汰であったが、その間、やっと内外の金価格上昇が一服した。あのまま500ドル近辺まで突っ走ってしまったら、後の下げもきつかっただろうが、480ドルの壁は厚く、跳ね返された。まぁ、健全な下げである。

以前、 "500ドルへのシナリオ"でも同様のことを書いたが、需給のファンダメンタルズを無視した極端な上げは、結局線香花火に終わる。多くの投資家(或いは投機家)が傷つき、市場の流動性は失われる。それに対し、調整局面を経て、それを徐々にこなしながら底値を切り上げてゆくパターンは持続性のある上げ相場となる。

現状では、450ドルまではアジア中東中心の実需がついて来るから、そこがレンジの下限を形成するだろう。

しかし、470-480ドルまでは、さすがにまだついて来れない。彼らがこの一段高いレベルに慣れるには、今しばらく心の準備が必要である。

NY先物の買い残高(ネット)も、550トンという高水準である。いかに年金を中心に市場の流動性が増したとはいえ、これは重い。英語でoverhangというのだが、この重い感じが市場に漂っているので、先週末の米国消費者物価指数(CPI)(※1)が年率換算4.7%まで上昇という報にも、金市場は反応しなかった。コア物価指数(※2)は安定しているという後講釈もあるが、私に言わせれば、"噂で買って、ニュースで売れ"の典型である。原油高=インフレ懸念の予測で、プロは金買いポジションを膨らませ、それが物価統計で裏付けられニュースとなるや、利益確定の売りに走る。だから、今、市場内では、そうした売りと、ちょっと下がれば待ってましたと出てくる新規買いが錯綜している。日々の価格の変動も大きい。

なお、CPIと並んで重要な材料である、ドル金利(FFレート)(※3)の動向だが、先週以来、長期金利も4.5%前後まで上がってきたことが注目される。筆者が見るに、この数字のほうが 投資家の今後のインフレ期待値を代表しているので、インフレ懸念の裏付けとして注目される。

FFレートの予測に関しては、メリルは4.5%、ゴールドマンサックスは5%(2006年年央)などの数字が出ており、市場も徐々にこのレベルを折り込みつつあるといっていい。CPIが仮に5%近い直近の水準を維持すれば、実質金利は依然ゼロに近い状態が続くことになる。金価格が下げても底が浅いのは、このあたりを読み込んでいるからだ。


※1 Consumer Price Indexの頭文字を取ったもので、つまり消費者物価指数のことです。消費者が購入する商品・サービスの価格変動を測るもので、卸売物価指数とならんで重要な物価指標です。
 
※2 エネルギーと食品の価格を除いた消費者物価指数のことを、コア物価指数と呼びます。実際に観測される物価指数のうち、エネルギーと食品の価格は短期的に大きく変動する傾向があるためで、中長期の傾向を見る上ではコア物価指数も重要視されています。
 
※3 米国のFederal Funds Rateの頭文字をとったものです。ようするに米国の銀行間で資金を融通しあう際の超短期資金取引の金利のことです。米国の金融当局(FRB)は経済情勢や景気動向に応じて、このFF金利の誘導目標を設定して誘導・操作を行なうことから、政策金利の性格を持っています。
 
2005年