豊島逸夫の手帖

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ドル不安のなかのドル高

2005年11月8日

為替は円安。2003年8月以来の118円台を示現。ちなみにその月の海外金価格は概ね350ドル台であった。国内金小売価格も1400円程度の時である。ちなみに、同月のFFレートは1%。45年ぶりの歴史的低水準と騒がれた。その後、ドル円は100円すれすれまで円高亢進後、円安(ドル高)に転じ、FFレートは12回の小刻み利上げを経て4%の大台に乗せた。

ドル高、利上げ、この言ってみれば金市場にとっての二大天敵とも言えるアゲンストの風吹くなかで、2年後の現在は金価格450ドル台。100ドルほどの上昇である。国内金小売価格も1800円台。

あらためて、この一見不可思議とも思える現象について考えてみよう。

およそ、外為市場におけるドル買いのポジションを見るに、2種類に分かれる。戦略的ポジション(strategic position)と戦術的ポジション(tactical position)である。

戦略的ポジションとは、例えば、10年後の老後とか年金とか子供の将来のための資産運用の分散過程でドルを買い、じっくり保有するパターンである。長期を見据えた運用というより保全に近い投資家マインドといえる。

戦術的ポジションとは、短期間の売買差益を狙い(極端な場合は所謂デートレーダーのように)ドル買いに向かうタイプだ。規模が大きくなるとグローバルなホットマネーとも言われる。

そこで、今のドル円市場の実態を見るに、日米金利差に着目した戦術的ドル買いが席捲し、円安ドル高をもたらしている。しかし、戦略的ポジションの観点からは、いかに目先、金利面でドルが有利とはいえ、やはり双子の赤字という米国経済のアキレス腱が気になる。早晩、米国がそのツケを払わねばならぬことは明白だ。ブッシュ政権が2期目に入り、その痛みを伴うツケの清算を先延ばしにすればするほど、その清算による経済的ショックは増幅される。

筆者は以前本欄で,米国経済を、羽振りが良いが、実は膨大な借金を背負っている人に喩えたことがある。いま、ドルを買う人は、まぁ、あと2-3年くらいは、借金積み上げの臨界点も来ないだろうと見て、その人におカネ貸している人に喩えられる。或いは、(これが一番ヤバイのだが)羽振りの良さに目を奪われてこの人がまさかと思いおカネ貸す人もいるだろう。

金市場でも、戦術的ポジションは、今、利益確定売りモード。戦略的ポジションは、相場が緩んだところでコツコツ拾っている。ドル離れモードにユーロペシミズム(悲観論)も加わり、代替通貨としての金、無国籍通貨としての金が浮上しつつあるという状況は静かに底流として続いている。但し、あくまでも一つの選択肢にすぎないこと、金は主役ではなく脇役であることは忘れずに。

主役は、やはりドル、ユーロ、円である。(人民元とかエキゾチックカレンシーといわれる中堅国家の通貨はまだまだだよ。先日、米国ビジネスウイーク誌で日本人がインド株ファンドに殺到。ああ、これで一相場終わりか、なんて書かれていたからね。エキゾチックものよりは金のほうが遥かにファンダメンタルズは良いことに間違いない。)

2005年