豊島逸夫の手帖

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ロンドン同時多発テロの影響

2005年7月8日

結論からいうと、市場は冷静を取り戻し、価格的にも変らない。

昨日夕方、筆者はたまたまロンドンのシティーの市場関係者と電話で話していた。「価格も大きな動きはないね」「もう夏休みムードだしね。オリンピックの話題ばかりだよ」「おい、こっち(東京)のテレビモニターにロンドン地下鉄で爆破とたった今、出てるぜ」「えーーっ!?」その直後から、向こうの電話の周辺が騒がしくなり、電話が途絶えた。

丁度、ロンドン市場が開いたばかりの時間帯だったが、その一時間後、金価格は4ドルほど急騰し428ドルをつけた。外為市場ではポンドが急落、ドルも売られていた。有事の金買い、ドル売りである。欧州株も急落、債券は安全性を求める資金で買い模様。原油は景気後退を嫌気して市場最高値から大きく反落。とここまでは、教科書的反応であった。しかし、ほどなく、外為市場も落ち着き、金価格も424ドルまで戻った。その間、ほんの数時間である。

9.11NY同時多発テロのときは、株式市場は閉鎖され、債券市場も主要ディーラー会社が破壊され機能麻痺、ドルも原油も急落するなか、金だけが派手に値を飛ばし、270ドル台から290ドル台へ急伸した。その動きは一日では収まらず、数週間に及んだ。振り返ってみれば、1990年代に一貫して下げ続けた金価格が大底を打った後、本格的回復を始めた、そのきっかけになったのである。

それに比べると今回は至って平静である。まぁ、こんなこと言うと、不謹慎だが、今回のテロの方が、遥かに傷は浅いということだろう。

スコットランドヤードの主力がグレンイーグルスのG-8警備に向かい、ロンドンが手薄なときに、朝のラッシュアワーの通勤車両を狙い撃ち、場所も金融街周辺となれば、状況証拠は誰が見てもお馴染みアルカイダの手口である。犯行声明も多分ホンモノであろう。

しかし、NYのワールドトレードセンター崩落に比べれば、その影響は限定的と言わざるを得ない。市場の反応も、NYのときは初体験でパニック的であったが、今回は、中東の自爆テロなどで、慣れっこになってしまった面もある。地政学的要因も陳腐化しつつある。こんなことに慣れてしまうというのも、考えてみれば困ったことだけどね。

一連の報道をBBC、CNNで追っていて、一番印象に残った場面は、ブレア首相がG-8首脳を従えて、鎮痛な表情で記者会見を行っていたとき。背景の右に居たブッシュ大統領が、それみたことか、と言わんばかりの表情で、普段の倍以上に胸を張っていたことである。例えば、イランの核兵器開発問題にしても、これまでは、疑惑のイラン国内施設を即撃ち叩くべしというブッシュの主張を欧州勢がまぁまぁとなだめ、なんとか外交的解決をと訴えてきた。

しかし、今回のテロをきっかけに欧州勢も態度を硬化せざるを得ないだろう。つまり、陳腐化したとはいえ、地政学的要因が今まで以上に強まることは間違いない。そこから生ずる緊張感が、ある臨界点を超えたとき、市場の反応も新たなサプライズ(驚き)へと変質するであろう。その臨界点をもたらすポイントは、元テロリストの大統領を選んだイランではないかと筆者は感じている。

2005年