豊島逸夫の手帖

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満腹状態の金市場

2005年8月31日

原油70ドル突破、ハリケーンのカトリ-ナ等々、気になる材料は色々出て来ている。けれども、市場内部には既に500トン近い史上最高の買いポジション(ネット)が蓄積している。満腹状態なのだ。食欲はあるのだが、これ以上、食べられない。まずは、今まで食べたものを消化せねばならぬ。これが、今の、欧米金市場の内部状況である。

それでも、500トンという数字は今までは考えられなかった規模である。年金の参入などで、明らかに市場の裾野が拡大していることの証(あかし)であろう。

それにしても、気になる材料は目白押しだ。

短期的にはカトリーナの災害規模が米国史上最悪になりそうだ。ハリケーンがヒットした直後は思いのほか大したことなかったと思われたのが、時間差攻撃で未曾有の洪水が襲った。住民も、そして市場も緊張感が一瞬緩んだ直後に虚を突かれた感じだ。通信回線が全滅なので、死傷者の全体像もこれから明らかになるが、日本全体が水没したような規模で、ダメージもインドネシア津波級と報じられている。10兆円を越す経済的損失となれば、せっかく縮小傾向を見せ始めた財政赤字にも悪影響は必至だ。原油価格も、この災害によって70ドル以上定着がほぼ確実になったと言ってよいだろう。

長期的には、ロシア、中国の共同軍事演習が不気味だ。アルカイダのアジア主要都市攻撃計画の報道も気になる。日本では、不安感を煽るとの配慮から、報道が控えられているが、東京とシンガポールがはっきり名指しされて、英フィナンシャルタイムズのトップ記事になっている(夕刊タブロイド紙の報道とは訳が違う)。日本のメディアは自民党の「コップの中の嵐」を報じているが、海外から見れば、日本の選挙刺客報道合戦が「コップの中の嵐」と映る。日本人にとって、地政学的要因はこれまで対岸の火事であったが、いよいよ他人事ではなくなりつつある。

金市場を読むには、コップの中の嵐を冷静に見分ける感覚がますます必要になろう。一般の個人投資家は、どうすればその感覚が養えるか。まずNHK BS (全国何処でも見れる)の海外ニュース(同時通訳附き)を少しでも見る習慣をつけることを勧めたい(筆者は2時間ほどの世界各国からのニュース抜粋をビデオに毎日収録して、帰宅後、早送りで見ている)。日本の各局報道が、如何に金太郎飴状態で、かつ、世界の流れから隔絶しているか思い知るはずだ。

なお、先週、ロンドンのエコノミスト誌は、小泉首相の写真が表紙を飾り、タイトルは「コイズミの勇断」。欧米金融市場の意見を代弁するカタチで、コイズミの改革路線の完全支持に廻っている。好む好まざるに関わらず、我々日本人の保有資産の価値のかなりの部分は、そうような価値判断で決められていることを肝に銘ずるべきだろう。

2005年