豊島逸夫の手帖

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480ドル突破

2005年11月17日

目新しい材料も特別にないのだが、11月16日のNY金価格は10ドル急騰し、480ドルを突破した。

昨日CNBCのテレビ番組に生出演して、市場に織り込まれていない意外性のある材料が出ると、ボックス圏を上放たれて500ドルも可能と述べたのだが、昨日、それほどのサプライズ要因はなかった。大きな経済統計としては10月の米国消費者物価上昇率が発表されたことだろう。

10月のCPI上昇率は0.2%。内訳を見ると、エネルギー関連が0.2%の減少に対し、住宅関連(指数の4割のウエイトを占める)が0.9%の増加(5年ぶりの急伸)。昨年同期比で見れば、CPI全体で4.3%増。コア物価指数は2.1%となる。

以上の数字に対するマーケットの反応だが、債券市場は"9月の1.2%に比し大幅な下落。コアも引き続き低水準にあり、エネルギーも落ち着いてきているので、インフレ懸念は沈静化の方向"と至って冷静。それに対し、金市場は、"インフレ懸念で10ドルの急騰。CPIは前年比では引き続き4%以上の上昇で、FFレート(4%)を上回る。実質金利はマイナス。住宅関連の急上昇もバブルを連想させる。"

同じ経済統計でも、市場のセンチメント、内部ポジションなどにより、全く異なる解釈を見せるという典型的な例である。要は、金市場は上に行きたがっている。そのための材料を模索している。

450-460ドルでは投資家の買いが待ち構えている。NYでも東京でも下がったら買うという投資家ばかりだ。そうなると、市場は下へ大きく突っ込めない。上を試しにゆくしかない。どこまで行けるか見極めたい。とりあえず、何か材料を大義名分にして、新規買いを入れてみよう。これが、今の、市場内部のムードである。強材料は注目され、弱材料(実はあまりないのだが)は無視されがちである。

国内では、円安が拍車をかけている。小売価格も税込みベースで2000円が完全に視野に入ってきた。筆者は、6月22日本欄"売るべきか 売らざるべきか"で、ターゲットは2000円、但し3年かかる、と述べたが、予想外のスピードで進行しつつある。正直、円安がここまでのハイペースで進み、同時進行で海外金も急騰するというシナリオは筆者の想像を超えていた。

ここは、日々の派手な値動きから距離を置いて、冷静に見る必要がある時期だ。

いまの相場は、過去の経験則が当てはまらない全く新たな需給構造変化の渦中にある。だからベテランほど見通しを外す。一度ハードディスクをディリートして、過去の相場の記憶は忘れたほうがいい。言ってみれば、初心者が大当たりするbeginner's luck相場といえる。経済学的に言えば、オイルマネー、アジアマネー、年金マネーという新たな買い手の出現で需要構造が変り、金の需要曲線が右へシフトし、新たな需給均衡点を模索している過程なのだ。しかし、ピンポイントでその均衡点に到達できるはずもなく、たぶん、オーバーシュートするだろう。その後、プラットフォームで止まりきれない電車が行過ぎてからバックするように、市場も行き過ぎを訂正しつつ、最終的な均衡点に徐々に収斂してゆく。その収斂ポイントは海外で500ドル近辺、国内で2000円近辺かと思っている。まぁ、詳しいハナシはセミナーにでも来て聞いてください。

2005年