2005年12月15日
リメンバー パールハーバーの言葉がちらほら出始める11月下旬。欧米が感謝祭のお休みモードで無警戒のときを見計らったかのように、東京発の金先物買い攻勢は始まった。NY休場で取引閑散のなか、日本時間で金価格は急上昇。500ドルを突破。"一体、何事だ"と欧米ディーラーが訝るなか、TOCOM(東工取)勢の波状買い攻撃が続いた。東京時間で上げ、NY時間で下げ、そこを再び東京が買い上げる、というサイクルが連日続いた。欧米メディアは"日本人投資家が、自国通貨安に危機感を抱き、金に殺到"と書き立てる。(彼らには東京市場が円安という言葉に感じる心地よさが分かっていない。自分達の投資尺度でしか見ることができない。)
先物市場の興奮状態を冷ややかに見ながら、アジア中東の現物市場は利益確定の売り戻しラッシュ。先物買い、現物売りのパターンが支配する。
TOCOMの個人投機家(投資家ではないよ)の買いポジションが膨れるだけ膨れ上がり、国際金価格が540ドルを瞬間タッチで示現するに及び、市場は"沈静化"のため、臨時措置(臨時割増証拠金導入)を発表。冷やし水のつもりが、それを浴びて心臓発作のような反応となった。アッというまに、503ドルまで急降下(本稿執筆時点12月15日朝8時時点)。TOCOMは連日のストップ安。欧米が冷ややかに見守るなか、結局は東京先物市場のひとり相撲であった。
飲めや歌えやの忘年会のような宴の後に残ったものは、TOCOMにおける個人投機家の膨大な買いポジション(ストップ安では売るに売れない)。そして、TOCOMが国際市場に比しプレミアム状態だったので、東京で高く売って、海外で安く買うという裁定取引を重ねた総合商社の膨大な売りポジション。その多くは、2006年10月を期限とする先物取引である。これから10ヶ月の間に、この巨大な売買の塊がどのように処理されるか。百戦錬磨のユダヤ系ディーラーの多い欧米市場は、指をポキポキさせながら見守っている。(おかげで、筆者は連夜、欧米市場関係者との深夜のメールやコンファレンス コールにつき合わされ、睡眠不足状態でフラフラである。)
なお、この間、市場環境は全く変わっていない。金価格をこれほど揺るがすに足る材料は出ていない。
FFレート0.25%上げもとっくに折り込み済み(3月のバーナンキ初のFOMCでの4.75%までは想定内である)。インフレ懸念が激化したわけでもない。(市場が24年ぶりの高値520ドルに沸いていた12月8日付け本欄"2006年の金価格展望"をもう一度冷静に読み直してほしい)。
国内では、海外金安に円高がダブルで効いている状態だ。
ここは、これまで傍観していた資産保全目的の金長期保有派が、待ってましたと買いに動くであろう。それは、他のアジア中東市場も同じ。彼らの現物買いが相場の下値を支える。市場の長期トレンドにはいささかの変化もない。
但し、先物市場での怪我人の山が運び出されるまで、市場は調整モードに入ろう。欧米はもうジングルベルでソワソワである。
2005年の高値は540ドルという歴史的事実のみが残った。