豊島逸夫の手帖

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2010年マーケットのリスク トップ10

2010年1月5日


毎年この時期恒例のユーラシア社発表、今年のリスク番付。


1.米中関係
米国内での中国脅威論高まる。米国中間選挙の年でもあり、政治的にチャイナ・バッシングの可能性。中国も応酬し、保護主義傾向も強まる。米国人の44%は世界を引っ張る経済大国は中国と答え、米国という答えは27%に留まるのが現状。
(筆者はかねてから、米中関係は仮面夫婦と述べてきたが、いよいよ別居。でも戸籍は抜けずということかね。)


2.イラン
最大の地政学的リスク。イラン国内の政治的不安により、欧米からの圧力に晒され、追いつめられたネズミ状態になるかも。ペルシア湾の船舶に対してちょっかい出すとか、近隣諸国の過激派支援とかのシナリオが考えられる。イスラエルによる空爆の実現性は低いと見るが、今年末にかけて、やはり要警戒要因である。
(米中関係が悪化すると、中国はイラン寄りに傾くのではないかな。ー筆者注)


3.欧州の財政状況の乖離
EU圏内でPIGS(ポルトガル、イタリア、ギリシア、スペイン、そしてアイルランド)の財政赤字問題が悪化する。それが、ひいてはドイツ、フランスにも悪影響を与える。(なぜ負け組の尻拭いをせねばならぬかという国内政治的問題化。)さらに東欧の経済危機の可能性。オーストリアが最大の懸念。東欧に貸し込んでいる欧州系大手銀行の経営不安に波及も。
(ソブリンリスクの問題を、筆者は非常に重く見ている。日経マネー今月発売号のコラムでも、この問題を取り上げることにしている。)


4.米国の金融規制
2009年に高まった銀行バッシングの動きが、2010年中間選挙を控え、一段とエスカレートする可能性。とくに政治家にとっては民衆受けする話題なので、銀行に対する増税とか規制強化の動きが強まるかも。法案が可決されると、規制当局の裁量に任される部分がかなり出てくるので、思わぬ規制強化が経済活動の妨げとなること状況にもなりかねない。


5.日本
一党支配の国で、その一党が失脚すると、政党の空白(zero party state)の国となる。それがジャパンの現状だ。
ハトヤマは熟練政治家でもないし、決断出来ない人物なので、今年は持つまい。影の支配者オザワもスキャンダルを抱える。カン、ハラグチなどの名前も挙がるが、結局、DPJ(民主党)政権は旧政権と同じ程度の弱い政府で、しかも官僚と財界の支持に欠ける。
米国が日本の失われた10年の軌跡を辿ると心配する声もあるが、2010年に関しては、日本が新たな失われた10年に突入するリスクのほうが大きい。
(ムムム、よく読んでいるなぁ。日本人として悔しいが反論できぬ。)


6.温暖化問題
コペンハーゲン会議については既に国内メディアでも報道されている通り。この問題が米中関係悪化のキッカケになりうる。


7.ブラジル
好調のブラジル経済だが、2010年に関しては、大統領選挙が懸念材料。現職ルーラ氏の存在が余りに大きく、誰が後継となっても見劣りする。経済的には国有企業への依存度、資源の国有化が加速するかも。ポスト・ルーラでどうなるかについては、南アフリカでマンデラの存在が大きすぎて、後継のムベキがいまいちだったことが連想される。しかし、ブラジル経済が失速することはなく、2011年には持ち直すであろう。


8.インド、パキスタン関係
パキスタン政府がアルカイダに対する追撃を強める姿勢。結果的にパキスタン国内の過激派が反発を強め、国内でテロ活動を拡大。それをパキスタン人はインドが後ろで操っていると理解する傾向がある。そこでインド国内のパキスタン支持組織が過激に反応するシナリオが考えられる。
一方、オバマは2011年にアフガニスタンから撤退開始の意向なので、インド、パキスタン関係に緩衝役が居なくなり、モロにぶつかる可能性も出てくる。この10年間で初めて、両国間の軍事衝突のリスクも考えておく必要あり。


9.東欧―選挙と失業問題
世界同時不況の煽りで東欧の失業率が危機的状況にある2010年に、同地域では総選挙が重なる。これは政治的緊張を高めるだろう。国の信用を維持するためには緊縮政策を採らねばならぬところ、選挙受けのために、国民に痛みを与える政策は避けることになろう。
ウクライナ、ハンガリーはIMF主導の経済回復路線を採っているが、IMFは緊縮財政を要求している。ラトビアも危機的状況。比較的安定しているポーランドとチェコも周辺諸国が不安定化すると、その影響を受けることになろう。


10.トルコ
トルコの政治姿勢は欧州からイラン、シリアに方向転換している。EU加盟は依然、先の話だ。さらに、イラクとの間にはクルド人問題が燻ぶる。四面楚歌状態の国で内部政情不安が加わり、2011年にはブラジルのような回復のシナリオは描けず。


なお、オマケとして、大穴シナリオで好材料になりうるということで、イラクとサウジアラビア、そしてロシアと米ドルを挙げている。
イラクは意外に国内回復が早く、周辺国の協力も得られるかも。
サウジは政治的継承がスムーズに運びそうなのでお薦め。
ロシアは今やBRICsとして同列に論じるには無理があるが、それでも2010年に限っては資源価格上昇の恩恵で悪くはない。
米ドルは、いろいろ言われるが、意外にしぶとい。移民により高齢化が薄まり、教育水準は高く、イノベーションを重んじる気風が強く、軍事的優位を保ち、国の規模も安定度も厳然として存在する。いずれ人民元からの挑戦を受けることになろうが、当面、米ドルの国際基軸通貨としての地位が相対的に低下しても、絶対的には不変であろう。


さて、足元の新年相場は株高、商品高のご祝儀相場。御祝儀と敢えて書いたのは、お屠蘇気分でこのまま乗れる状況とは言えないから。なんといっても今週末には毎度お騒がせの米雇用統計発表が控えている。


金に関していえば、昨年プロの多くが空売りでやられているので、新年開けにいきなり売りからは入りにくい心境。まずは買いからジャブを入れてみた程度の話。筆者は、まだ今週の相場を(株もドルも金も原油も)まともには受け止めていない。余計なことしないで、まだお屠蘇気分を続けたほうがいいようなもの。


昨晩、中国広州から帰国しました。


今年もチャーハンを極める修行の旅となり、ついにはチャーハンに使うお米の種類を選別するレベルにまで達しました。その名も「国宝」という銘柄米が特にチャーハンに合うというのが結論。高熱でさっと炒めると、表面シコシコで弾力あって、中はジューシーな感じが堪りませんな。余計な具など不要。こういうベーシックな料理こそ、ソースなどのごまかしが効かないので、料理人の腕が如実に出ます。有名レストランでも、創業者のオーナー・シェフと師範代のセカンド・シェフの違いはただひとつ。素材の熱の通し方だもんね。あればっかりは、センスの問題で、何年かかっても、そう簡単には会得できない。


なお、広州のチャーハンは大皿100円とか200円の世界。隣のマッサージに寄ったら、一時間たっぷりで、400円程度でした。この客単価では、中国経済が世界一になるには、まだまだ時間がかかるわい、と思った次第。北京や上海の目抜き通りの物価は中国国内の平均水準より遥かに高いということですね。よく言われる富の格差を痛感しました。それでいて街中のお世辞にも奇麗とは言えない不動産屋さんに掲示されている物件価格は1千万円以上が多いからビックリ。急増する銀行融資で膨張した不動産価格と、一泊1万円以上の高級ホテル近くにある按摩は1時間400円という実態経済の乖離を見せつけられた感じでした。

2010年