豊島逸夫の手帖

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米公定歩合引き上げー出口戦略開始

2010年2月19日

NY市場が引けた後、日本時間の朝6時過ぎに、FRBが抜き打ち的に公定歩合を0.25%引き上げ、0.75%にすると発表。前日のFOMC議事録でも、出口戦略が本格的に議論されたことが明らかになっただけに、いよいよ来たかという感じだ。

しかし、冷静に見れば、公定歩合というのは、緊急時に市中の銀行が資金不足になった場合に、駆け込み寺みたいにFRBに泣きついておカネを借りるときのレートである。金融危機が最悪期を脱した今は、ほとんど使われていないし、また必要とされるような切迫性もない。従って その効果は、金融市場は安定した(正常化)というFRBの見立てを伝えるというアナウンスメント効果に過ぎない。

もしFFレートを0.25%引き上げるというのであれば、これはマーケットに大きな影響が出るは必定。FFレートは、平時において、銀行がおカネが足りないときに、おカネが余っている銀行から借りるときのレートだからだ。つまり、直接的に市中の短期金利が上がることになる。(FRBは、この銀行間で資金を融通する市場の資金量を増やしたり減らしたりしてFFレートをコントロールしているわけ。その目標値が「誘導目標」と言われる)。

今回の場合はFFレートは0.25%に据え置き、公的歩合は0.75% に引き上げるという措置。従って、住宅ローン金利など庶民の生活には影響の少ないほうの公定歩合だけ引き上げたという意味では、象徴的な動きに過ぎない。この程度であればマーケットでも数週間前から予想はされていたことでもある。

ただ、いよいよ出口戦略開始か、という緊張感は漂う。次に注目されるのは、3月で期限が切れるFRBによる各種債券買い取りプログラムのことであろう。買い取り債券には住宅ローン関連債券も含まれるので、不動産市場に直接影響が及ぶ可能性があるからだ。その時点で、本当に金融不安から脱したのか否かが問われよう。

なお、虫の目で見れば利上げ開始だが、魚の目で見れば仮にFFレートまで引き上げられたとしても 0.25%刻みで3回程度、つまり1%程度が予想され、歴史的に見れば超低金利時代に変わりはない。それ以上、金利を引き上げれば、米国経済が「肺炎をぶり返す」リスクがある。

金利と言えば、米国10年債の利回りが3.80%を突破してきた。来週も大量の入札を控えて、債券市場の需給関係が懸念されている。マーケットのムードとして、ソブリン・リスクが米国債にも波及する可能性を感じている。

公定歩合引き上げが、経済の健全化を示す良い金利上昇とすれば、10年債のほうは悪い金利上昇。金市場にとっては利上げは下げ要因だが、悪い金利上昇のほうは信用リスクが高まるという意味で上げ材料となりうる。

なお、IMFが残り191トンを市中で売却との報道も流れたが、これは段階的に予定量が売却されるので大した影響はない。魚の目で見れば、市場が吸収できる範囲なので、需給関係が崩れるような話にもならない。

金市場にとって、現在の価格が本当に試されるという意味の洗礼は、FFレート引き上げの時だろうね。それはまだまだ先の事だ。

なお、虫の目で見れば、ドル高に振れがちなので、金価格も頭を打たれそう。

2010年