2010年11月11日
「金本位制」という、知的興味をそそられるような言葉だけが独り歩きしている感がある。一般メディアでの取り扱いを見ても、「金本位制は難しいでしょう」だけ。「識者」がコメントを求められても、金に関しては素人なので「難しい問題ですねぇ...(苦笑)」でお茶を濁す。
ゼーリック氏(世銀総裁)は、最初から(キッカケになったフィナンシャルタイムズ紙への寄稿)、金本位制へ戻れ、などとは一言も言っていない。金を通貨として考え、その価値が高騰している意味について述べているのだ。昨晩はCNBCで彼のインタビュービデオが流れた。↓
http://www.cnbc.com/id/15840232?video=1639108776&play=1 (現在公開されていません)
彼の発言要旨は、「金本位制を提唱しているわけではない。しかし金が代替通貨として機能していることは事実だ。しかし、Gold is elephant in the room =金は部屋の中の象(誰もが知っているのに議論を避ける話題)となっている。政策当局は金価格変動の意味に注目すべきだ。金高騰は現行金融経済システムへのlack of confidence=信頼性の欠如を示しているのだ。金をpoint of reference=参考指標として見るべきだろう。」もともと彼の話は、G20に向けての国際協調を訴える世銀総裁の立場から総論の一部として語られたものだ。
「金融、財政、貿易などマクロ経済政策の総論の中で、経常収支を努力目標とするも良かろう。しかし、それだけでは不十分だ。TPP(環太平洋連携協定)など自由貿易も必要。貯蓄消費のバランスという経済の構造改革も必要。そして国際通貨制度改革も必要。そこでは人民元を含む五大通貨が複数の国際準備通貨として機能するだろう。金も政策決定にあたりインフレ、デフレを計る参考指標として位置づけられるべきだ。」という総合的論調なのだ。
ここまでの原文を読まず聞かず、金本位制という見出しだけに振り回されている。「識者」諸氏も、原文を読まずに手抜きだなと感じた。好感を持っていたエコノミストが、プロの目から明らかに手抜きのコメントしていることが分かってしまうと、その人の他のコメントの信頼性まで疑われ、がっかりしてしまうものだ。
なお、ゼーリック氏の論調は、筆者が著書で書いてきたこと、すなわち「金価格上昇の要因は政策不信にあり。バーナンキを信じられれば金は売り=インフレヘッジもデフレヘッジも必要ないはず。日銀は金価格を金融政策に対する通信簿としてウオッチしている。節度ある金融政策が運営されていれば、国民が不安感から金を買うことはなく金価格は下がるはずだ。現行の信用通貨制度は性善説。通貨供給は無限に出来るから通貨当局の金融節度を信頼するシステム。対して金本位制は幻想だが、究極の性悪説。数億年の自然現象から生まれた希少資源を人間は勝手に作ることは出来ない。その金の保有量をベースにしたシステムゆえ人間の叡智を信用していないシステムなのだ。」に通じるものがあり、共感する。
まぁ、結論から言って、金の通貨としての復権の兆し程度の表現が、一番適当かな。ポートフォリオ運用と同じく、金は通貨の世界でも主役ではない。あくまで脇役である。
さて、昨晩のNYは銀市場過熱化に対する取引制限導入で大荒れ。コメックスの銀先物取引に対する証拠金が5000ドルから6500ドルに引き上げられたのだ。取引が過熱すると取引所が導入する常套手段である。高値の28.90ドルから7%急落して26.80ドルまでつけたところで下げ止まり。その後27ドル台回復中。慌てた投機筋が売り手仕舞いに走り、bloodbath=血の風呂と表現される修羅場と化した。
さて、日経CNBCで公開収録やります。↓
www.nikkei-cnbc.co.jp(現在公開されていません)
特にまともな質問(笑)してくれる方の参加を募ります。