豊島逸夫の手帖

  1. TOP
  2. 豊島逸夫の手帖
  3. バックナンバー
  4. 金融市場にも『大津波警報』が必要
Page824

金融市場にも『大津波警報』が必要

2010年3月2日

チリ大地震の津波が日本沿岸にも及び、気象庁が大津波警報を出したのだが、それが結果的に過大な表現であったと非難されているらしい。見当違いの批判だと思う。気象庁だって出来る限りの情報を入手してシミュレーションした結果なのだろうし、少しでも可能性があるのなら最悪の状況を想定して警報を出すのは当然のこと。予測なのだから、当たることもあれば外れることもある。大津波警報ともなれば、外れて良かったではないか。外れたからといって気象庁も謝る必要はない。

この大津波警報騒動を見て感じたことなのだが、今、金融市場を揺るがせているギリシア財政危機のような「経済危機」が勃発した場合、その影響が日本に及ぶ場合の状況をシミュレーションして「経済危機注意報」とか「経済危機警報」とか段階的に分けて当局が発したら、投資家も随分と参考になるのではないかな。

東大地震研のシミュレーションによる、大津波がチリ沿岸から太平洋を拡散して日本沿岸にまで達する様をビジュアルで見ると、正に米国で起きたサブプライム危機が太平洋を渡り、ついには日本の地方公共団体などの資産運用にまで巨額の損失を波及させたことを連想してしまう。

さらに、津波は第一波に次ぎ、第二波、第三波と襲ってきた。第三波になるとアラスカに到達した津波が、ビリヤードみたいに跳ね返って日本沿岸に来たものらしい。これもCDSなどのデリバティブを通じて思わぬ方向へ影響が拡大したサブプライムに似ている。

そして、第一波が10センチメートル程度なので大したことないとタカくくって沖に避難していた船を、早々と帰港させた人たちも多かった。思えば、サブプライムも当初は、皆が、米国ローカルの問題としてタカくくっていたっけ。

なお、50年前のチリ地震による三陸大津波を経験している人たちは、すぐさま逃げたという。でも、大多数の住民は、未経験世代なので、避難勧告に応じた人たちは、わずか6%だそうな。うーむ、これも、例えばインフレを経験している世代と、未経験世代の違いを彷彿させるねぇ。やっぱり痛い目に遭わないと、人間はその本当の怖さがピンとこないのだね。

最後に金市場の教訓としては、津波と普通の波の差が示唆的である。今の金市場では、寄せては引く普通の波のように買っては売りを繰り返す短期投機筋の波と、マーケットの景色を変えるような津波のような新規の買いの波が交錯している。中央銀行の金買いとか大手ヘッジファンドによる長期保有の大量金購入、さらに中国の金需要、そして欧米年金などの金購入の波は、これまで金市場が経験したことのない津波である。 

寄せては引く波による相場であれば、行って来いの循環相場になるが、津波による相場ともなれば、その価格に対する影響も非可逆的である。最近、金はバブルか否かの議論が喧しいが、寄せては引く波による買いであればバブル。津波型であれば、バブルと片付けることは出来ない。市場の地殻変動によりマーケットの景色が変わったと見るべきであろう。

2010年