豊島逸夫の手帖

Page812 リスクからの逃避、リスクの連鎖

2010年2月8日

2008年、米国の低所得者向け住宅ローンの焦げ付きという地域的なリスクが、証券化商品を通じて世界にばら撒かれ、破たんの連鎖を生んだ。

2009年、サブプライム・リスクの連鎖が生んだ世界同時不況から脱出するために、世界各国の政府は未曾有の財政出動と超金融緩和というマネーじゃぶじゃぶ作戦を実行。その過程で、大量の国債発行を通じて、民が抱えて持て余しているリスクを官が引き取った。

そして2010年、そのリスクを引き受けた公的セクターの一部に破たんの危機が見え始めた。国債のデフォルト・リスク=ソブリン・リスクである。

EU周辺国のギリシアという地域的ソブリン・リスクが、再びリスクの連鎖を生んでいる。マーケットは疑心暗鬼状態。疑い始めるとキリがない。ギリシアがヤバイとなると、ポルトガルやスペインもヤバイのでは。そうなるとユーロそのものも寄り合い所帯のほころびが露呈する。そうなるとユーロ圏の金融機関の経営不安が生じる。再び不良債権が増え、貸し渋りが起こり、更に銀行間市場では疑心暗鬼から流動性不安(銀行間の資金融通が出来なくなる)に発展する。

また、ユーロ圏経済にリスクが高まると、ユーロに依存している新興国市場の景気回復にも水が差される。新興国市場の経済成長が鈍化すれば、米国経済にも大きな影響が及ぶ。米国の雇用統計も振れが大きいことが、不安心理を煽る。

かくしてEU圏の国債売りから始まった一連の資産処分売り、換金売りの波は、世界の株、商品市場に波及。米国債を除き、総売り、投げ売り状態である。そうなるとヘッジ・ファンドにとっては草刈り場。リスクの連鎖が投機により増幅される。(日経マネー最新号の連載コラムに、国債デフォルト・リスク国トップ10とヘッジ・ファンドが見るマーケットのリスクについて書いてあるので、改めて読み直して欲しい)。

その中で、金も「安全資産」ではなく「リスク資産」と看做され、総売りの波を被っている。しかし、金市場内部を点検すると、リスクから逃げようと金を売るプロと、リスクを分散させるために金を買う個人投資家という対照的な構図が見られる。アジア中東の個人投資家は活発に金を買っている。現物需要が旺盛だ。売り戻し、リサイクルは影を潜めている。

対して、NY先物市場の買い越し残高は急減。ファンドの売り手仕舞いが目立つ。こういう状況下では、プロのリスク逃避の売りが一巡すると、リスク分散の現物買い(これは長期の買いっぱなしが多い)がジワジワ、ボディー・ブローのように効く。決算期のない個人投資家はじっくり買い、決算期に追われるプロはあたふたと売る構図とも言えよう。

ここは、長期的に見れば、個人に分があるね。

さて、まるまる一週間の御無沙汰でした。最後の更新が、上海のホテルだったような...。いろいろご心配もいただきましたが、先週はマジに目が廻る仕事のピークでした。中国関連の大型案件と日本関連の事業拡大の二つの山が重なった感じ。

中国の土産話も色々あるのですが、それはまた折々触れてゆきましょう。(今日発売の週刊エコノミスト誌の中国特集に、上海で書いた原稿が載っています)。まぁ、今週は中国の春節だし、ちょっぴり余裕が戻るはず(I hope...)。

食べるほうだけは、相変わらず。先週印象深かったのは、外国からの賓客を案内した茶室で供された京都風本格的茶懐石。ほんのりとした陽光に浮かぶ利休筆の掛け軸を眺めつつ、海辺の松林を渡るそよ風の音に似て、釜の中で沸騰する茶の湯のしゅんしゅんというリズムに耳を傾けながらいただく炊きたてご飯の味は格別。今、お釜で炊きたてですよ、ということを伝えるために、敢えて柔らかめに炊かれたお米と、京風白みそのお椀のコンビネーションがシンプルなれど味わい深い。食べ終えましたということを庵主に伝えるために箸をはじく音とともに第一部が終わり、第二部の薄茶へ。取り寄せの和菓子から始まり、島根県から、これも取り寄せの牡丹をめでつつ頂戴しました。

ガイジンの賓客は正座に難儀していたけど、そんなことにはおかまいなしで、ひとり自分のお茶の世界に浸ったひとときが、激務の一週間の中ではこのうえない癒しの時間でしたね。自宅内に京都の歴史ある茶室を再現してしまった友人の庵主に感謝。

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