豊島逸夫の手帖

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現場発アイルランドレポート パート2

2010年11月25日

時間がないので簡単にまとめます。別途、日経マネー本誌の連載コラム「現地発 国際経済の見方」でたっぷり語りますから。

今日はアイルランドの今後4カ年経済再生計画発表の日。ホテルのロビーのあちこちでテレビカメラの前でキャスターが語っている。いまや問題はソブリンリスクよりバンキング(銀行)リスクである。アイルランドは、あと半年は持つだけの「埋蔵金」を持っている。今すぐにデフォルトにはならない。しかし、銀行取り付け騒動でも勃発すればアウトである。そこで銀行救済を実行すれば納税者の負担は増し、緊縮はさらに強まり、国民の忍耐も切れる。Lose-loseのシナリオだ。アイルランドの銀行が破たんすれば、直ちに信用危機が欧州全体にcontagion=伝染するは必至。

でも希望の灯も見られる。労働人口は若く教育水準は高い。売りものの法人税12.5%は死守して外資導入を再び図る構えだ。工業生産は1-9月で年率11.5%増加してきた。修羅場を経験した後で、縮小均衡の新たなアイルランドが再生するだろう、と期待したい。優秀でいい人たちだから。

筆者はこれでヒースロー経由、成田に向かう。マーケットの焦点はユーロが対ドルでどこまで下がるか。

最後にダブリンで拾った話。アイルランドの閑散とした都市での話。

雨が降り、人どおりも少なかった。経済は厳しい。
みんな借金だらけだ。誰かにカネを借りている状況。
そんなある日、恰幅の良い旅行者が通りかかり、とあるホテルに寄った。
100ユーロ紙幣をカウンターに置いて、
「今夜泊まるのに適当な部屋があるか検討したいので階上の部屋を見せてくれないか」。
ホテルのオーナーは部屋のキーを幾つか選んで渡し、
旅行者が階上に行くや、100ユーロ紙幣を掴み隣の肉屋のツケを払うために走った。
受け取った肉屋は、直ぐに養豚業者に走り、滞っていた支払を済ませた。
その100ユーロ札を受け取るや、養豚業者は、
餌と燃料の販売業者(農協)に走り、溜まった請求を払った。
農協の人は、直ちに近くの飲み屋でツケを払った。
その飲み屋のオヤジは、丁度店で酒を飲んでいた馴染みの売春婦に
以前から「ツケ」で楽しませてもらっていたので、その支払を済ませた。
そのお姐さんはホテルのカウンターに行き、先日のホテル部屋代を支払った。
それを受け取ったホテルのオーナーは、何事もなかったかのように
カウンターの上に100ユーロ紙幣を戻して置いた。
恰幅の良い旅行者は何も気がつかず「気に行った部屋がない」と去っていった。
誰も何も生産したわけではない、誰も何かを汗水流して働き得たえわけでもない。
でも街全体が借金から解放され、未来に向けて再出発することになった。
これが「景気刺激策」の効果なのだろう。

2010年