豊島逸夫の手帖

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北京からの中国経済レポート パート1

2010年3月31日

先月は上海に出張したが、今回は北京。北京に来ると、経済についての議論でも、党の意向を強く感じざるを得ない。中国人民銀行にしても、所詮テクノクラート集団であり、党の政策優先順位を忠実に守り、党の示す基本的方向性に沿って、いわゆる金融政策を粛々と実行する。従って、中国経済が開放化路線を歩んでいるものの、実態は依然、党により厳格に管理された経済なのだ。

本欄でこんなエピソードを紹介したことがある。中国で金についての講義(というか「ご進講」といおうか)を依頼されて話したときのこと。基礎的議論の中で、例えば市場参加者が売りに走れば、価格は下がるという当たり前の話から切り出したのだが、そこで早速、最前列のトップと思しき恰幅の良いおじさんが、待ったをかけた。
「豊島先生、それは違う!」
自信満々の語気の強さに、こっちも一瞬ビックリしたが、彼は、こう言葉を続けた。
「売らせなければ、価格は下がらない」
なるほど経済についての大前提の考えが違う。その前提の違いを説明、議論するだけで1時間かかってしまった。

そして今回は、中国経済はバブルかという議論を交わしたのだが、筆者が強く感じたこと。「バブル膨張を放置して膨らんだ風船を破裂させるような強い金融引き締めは、党が許容しない、あるいは、させない。」

党の最大の懸念は、締めすぎて経済が失速し失業が増え社会不安を招くことなのだ。多数の少数異民族を抱える人口13億の巨大国家を治めるに当たり、人心の安定が最も重要ということは中国の歴史が示している。金融について、緩めすぎのリスクと締めすぎのリスクを天秤にかければ、明らかに締めすぎのリスクを嫌う。

だから中国人民銀行も本気で引き締めを続ける気はない、というか出来ない。そんなことすれば、彼らの首が飛ぶ。彼らの目は、常に内(=北京の党本部)を向いているのだ。

ただし、このような状況は問題の先送りとも言える。

今日は虫と魚の目で見た話だが、鳥の目で見た場合のことを(今日はもう時間がないので)帰国後に書いてみたい。なおツイッターではモバツイ経由で北京から呟き続けているので、こちらも参考にしてほしい。
http://twitter.com/jefftoshima

2010年