2010年7月9日
7月6日付け日経産業新聞に掲載された記事を転載します。(金――ワールド・ゴールド・カウンシル豊島逸夫氏/商品ウオッチ市況を聞く)
5~10年間は堅調
金の国際価格が1トロイオンス1200ドル台の高値圏で推移している。指標となるニューヨーク先物(中心限月)は6月21日に1266.5ドルを付けて過去最高値を更新した。欧州の政府債務問題などを背景に「無国籍通貨」としての需要が広がっている。金の国際調査機関、ワールド・ゴールド・カウンシル(WGC)の 豊島逸夫・日韓地域代表に相場の行方を聞いた。
――金価格の今後の見通しは。
「金相場は急騰が続き、過熱感が出ている。1日に一時1200ドル割れの水準まで売られる場面があったように、短期的にはヘッジファンドなどの利益確定売りで調整するリスクがあるだろう。ユーロ圏の債務問題が深刻化して投資家の換金売りが広がれば、2008年のリーマン・ショック時と同様に株や他の商品と同時に売られる可能性もある」
「一方、ドルやユーロに対する不安は根強い。米国が政策金利を引き上げれば金利が付かない金には売り材料となるが、利上げ時期は遠のいている。調整の売りが一巡すれば年金や個人富裕層の長期的な資金の流入で再び上昇するとみている。年末時点の予想は1300ドル。一時的に下げた場合の下値は1100ドル程度とみている」
――中長期的な見通しは。
「生産コストの上昇で相場の下値は切り上がっている。鉱山会社が長期的に操業可能なコストは1トロイオンス当たり900ドル。この水準を下回れば鉱山生産量が減って需給が引き締まる。来年以降は米国の利上げで一時的に売られる場面もあるだろうが、新興国の需要が下支え要因となり下値は限られるのではないか。今後5~10年の期間でみると、1000~2000ドルの範囲で推移すると予想している」
――中国で宝飾品や投資の需要が伸びている。
「中国では公的部門の買いに加え、民間部門で大きな需要の伸びが予想される。07年に金の販売が解禁され、四大商業銀行は今年から金の販売を本格化している。中国工商銀行だけでも約1万6000店の支店がある。宝飾品と投資需要を合わせて年間400トン程度の需要が5年程度で倍増するとみている」
――世界の工業用需要は昨年300トン強。景気回復で増加するか。
「携帯電話に使われる極細の金線であるボンディングワイヤなどの需要は回復するだろうが、大幅には増加しないだろう。工業用需要は景気によって上下に100トン程度変動するが、金の需要全体(約4200トン)からみると相場に対して大きな影響はない」
――価格高騰で中古金のリサイクルが増えているが。
「宝飾品や地金などの中古金リサイクル量は価格高騰を背景に09年は過去最高に膨らんだ。今年も高水準で推移し、相場上昇のスピードにブレーキをかける一因となりそうだ」
(記者の目)
ETF残高増加、相場変動要因に
金価格を押し上げている要因の1つが上場投資信託(ETF)の残高の増加だ。金ETF最大手の「SPDRゴールド・シェア」の6月末の残高は1320.44トンと昨年末と比べ16%増えた。通貨不安を背景に投資家が資産の一部に金を組み入れる動きが広がり、欧米の富裕層やヘッジファンド、年金基金 などの資金が流入している。
SPDRゴールド・シェアは金現物を裏付けとしている。ETF残高が増えれば管理会社の地下金庫に金塊が積み上がる仕組みで、需給を引き締める要因となる。2008年のリーマン・ショック以降は投資需要の増加が著しく、金価格を大きく左右する要因となっている。投資マネーの動向次第で大きく相場が変動するため、今後も注意が必要だ。(村上史佳)