豊島逸夫の手帖

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流出問題 ふたつ

2010年6月10日

日本では口蹄疫が大問題だが、米国ではメキシコ湾原油流出問題が底なし沼にはまってきた。ブラックスワンの典型で、そんなイベントリスクを危機管理モデルにインプットしていなかった。だからBPも慌てて緊急対策に追われているが、後手後手の印象は拭えず。

昨晩はBP株15%も急落しNY株価の足を引っ張った。流出事故以来、BP株価は半分になった。配当停止どころか破たんの可能性さえアナリストにより指摘されるほど。英国籍企業が米国内で引き起こした問題ゆえ法律的問題もややこしい。口蹄疫同様、政府の対応の遅れも非難される。事故発生以来、オバマはBPトップと何も話していないとか。

かくしてエネルギー株がNY株の下落を加速するという悪循環。問題はユーロ不安だけではないのだ。万が一、BPの経営不安問題などに波及すると、マージンコールに追われたファンドの売りが金にも及ぶ。なんせ金のポジションは利が乗っているし、流動性があるから、即売却処分できる。

NY株は、連日、引け際ギリギリで大きく動く状況が続いている。昨晩も日中ダウ120ドルまで上昇したが、最後の1時間で急落。結局40ドル安で引けた。金融市場規制問題が影を落とし、社内のリスク管理も厳格化して、ディーラーポジションはますます短期化している。オーバーナイトで欧州のどこかの国のトップがどんな問題発言しでかすか分からんし、原油流出も、なんせ海底で噴出中の問題ゆえ展開が予測できない。だから毎日身辺整理して帰宅する。宵越しのポジションは引っ張れない。朝買っても、夕方までには売り戻す。48時間以上の「長期」ポジションなど張れない。基本的にはアービトラージ(さや取り)に徹する。ア―ブというのは市場間のmisprice(異常な値差)を見つけ出すことが勝負。ある意味、アラ探しみたいなとこがある。

もうひとつの流出問題は日本から金が大量に流出しているという話。昨日の日経夕刊で報じられた。金高騰で金現物の売り戻しとかリサイクルが急増。新規買いの量を上回る。結果、余った金地金が輸出される。その一部は香港ルートなどで中国に行っている可能性大。ただし金地金は溶かせば生産国の特定ができない。トレ―サビリティー不可能。

金は希少資源ゆえ、みすみす手放すのではなく、国家備蓄でも考えればよいのにと思う。いまの状態が異常であって、いずれ輸出国から輸入国に戻るのは見えているのだから。

なお、2009年の国別金投資需要は以下の通り。

インド 136.1トン
中国 80.5 
ベトナム 58.2 
トルコ 31.8 
サウジ 10.9 
イラン 23.4 
米国 111.9 
ドイツ 133.9 
スイス 97.3 
他の欧州諸国 60.5 
対して
ジャパン ―30.8トン

断トツのマイナス。つまり売り戻しが新規買いを上回るということ。
なぜだろうね。やっぱりデフレのドツボの国だから、とりあえずキャッシュが欲しいということだろう。

なお、米国、欧州の金投資需要が急増していることも確認できる。サブプライム汚染度が強い地域、財政危機意識が高い地域で金が買われる傾向顕著。

2010年