2010年9月10日
以下は、なんと8年前に書いたアーカイブから引っ張ってきたものである。
ペイオフ解禁が近づいた。そのための対策として金地金が買われている。しかし、ペイオフ対策として金に何を期待しているのだろうか。
「金は相場商品で、円高になれば価格が下がることもある。だから、預金を解約して金を買っても安全とはいえない」という議論がある。「安全性」を価格変動リスクが無いこととするなら、その通りである。けれども、今、金を買っている人たちが恐がっているのは、ほかでもない「信用性」のリスクなのだ。為替差益を狙った投機的売買ならばドル預金を選ぶかもしれない。でも、老後や子供の将来を考えた資産保全ということになれば、ドル預金には信用リスクがついてまわる。
株、国債、銀行預金、どれも発行体、すなわち事業法人、国、銀行の信用の上にその価値は成り立つ。ところが、その信用の破綻が相次ぎ、信用リスクが無いという意味で「安全」と見られた金に注目が集まったわけだ。金は破綻しない、とでも言おうか。欧米では「金は誰の債務でもない(Gold is no one's liability)」と言われる。
もう一つ大事な点がある。今や、全ての投資商品が安全ではない。国債でも格付けが下がれば価値が下がる。銀行預金でもこれからはゼロになるリスクがある。もちろん、金も価格リスクがある。100%安全策が無い場合は、分散によりリスクを薄めるしか方法はない。分散投資とは、価格がバラバラに動く様々な投資商品を持つことである。同方向に上がったり下がったりするのではリスク分散にはならない。特に、9.11米国テロ後は世界同時株安で、従来の地域分散理論も疑問視されてしまった。そこで、株安のときに価格を上げた金が注目されているわけだ。
金は相場商品で価格が下がることもある。しかし、信用リスクが無いという意味に限り「安全」である。価格の変動も、株や債券と逆方向に動く傾向があるので、リスクを分散できる。これが、ペイオフ対策として金が買われている理由である。
なお、注意すべきは、金を全資産の50%も80%も抱えてしまったら、金の価格リスクだけが突出してしまってリスク分散とは言えないことだ。あくまで、資産の10%程度にとどめて初めて本来の「財産の隠し味」としての金の味わいが出るのだ。
(以上引用終わり)
8年経っても、こういう基本的事柄は変わらないね。
さて、昨晩上海から帰国。昨日、中国最大の(そして世界最大の)中国工商銀行が、上海、北京、広州など5か所に直営ゴールドショップを同時オープンさせたので、そのオープニング・イベントに出席してきた。年内には50店舗に拡大とのこと。
上海の旗艦店は元デパートのフロア400坪を使った大きな金専門販売店舗。銀行が金だけ扱う支店を作るなどという発想は、まさに金大好き人間の集まりといえる中国ならでは。
店内には干支をモチーフにした金地金やコイン販売コーナーやら、純金積立受付カウンター、富裕層向け金投資相談コーナー、更には先物取引体験コーナーまで完備。「中国黄金文化」と題する金にまつわる歴史の展示もあった。
昨年9月9日に同行貴金属が創立し一周年の記念行事にも参加。これほど中国の民間商業銀行が金販売に熱心なのは、中国人民銀行の意向を受けてのこと。
実は中国は2兆4千億ドルに膨張した外貨準備の一部を金で運用する計画であったが、実際に人民銀行が欧米市場にノコノコ出て行って金買います、などと言った途端に金価格は急騰してしまうであろう。そこで公的部門ではなく民間部門に金を備蓄させようという考えが浮上したのだ。そこで大手銀行を中心とする流通機構を構築して、銀行経由で個人に金を販売させることが必要となったわけだ。
中国工商銀行の行員の中でも、「中級金投資分析師」(ゴールド・アナリストだね)の資格もつ者が170人。「黄金交易員」(トレーダーだね)を資格持つ者は700名に達する。既に立派なプロ集団なのだ。現在 工商銀行の預金者数2億人。その中で どれだけ金を購入するか見ものである。
最後に新著「金に何が起きているのか」は、発売日に2刷りの準備が既に始まりました。応援感謝!