2010年12月6日
雇用統計が振れやすいマクロ経済データであることは承知しているが、先週金曜日に発表になった数字ほど事前予測とかけ離れることも珍しい。
事前の他の経済データが相次いで好転傾向だったので楽観論が支配し140,000人は新規雇用増加するのではないか、と見られていたが、蓋を開けてみれば、ひと桁違う39,000人増。しかも失業率も9.8%に悪化。マーケットにはサプライズとなり、一転ドル安。金は20ドル以上急騰して1410ドル台へ。
悪い雇用統計の数字により、FRBの量的緩和方針がさらに固まったとして、株も過剰流動性期待相場で結局買われる展開。資産インフレへ、まっしぐらの様相だ。
ここで、雇用統計を詳しく分析してみよう。
全体の非農業雇用部門の雇用数を内訳で見ると、
1. 中流階級(国民経済の一番コアになる働き手の皆さん) 41.4%
2. 医療、教育、社会福祉関連 23.0%
3. パートタイム(レストラン、スーパなど) 27.0%
4. 公務員 8.6%
ここで最大の問題は、コアの中流階級が、リーマンショック前の6060万人から、現在は5400万人へ激減していること。さらに、この1年間でも5380万人から5400万人とほとんど増えていないこと。要はリーマンショックから沈みっぱなしなのだ。「中産階級の危機」が叫ばれて久しいが、ここが回復しないと持続的雇用回復は望めない。
逆に、この1年で雇用統計が好転傾向と言われるほとんど部分(増加数)は、パートタイム分野なのだ。さらに公務員は財政赤字の中で当然減少傾向。1120万人程度である。コアの中産階級新規雇用が700万人増加してリーマン前に戻るのは、果たしていつの日か...。量的緩和で雇用が増えるのか。
下記のイラストは日経マネー最新号P22-23の筆者連載コラム「豊島逸夫の国際経済の読み方」に載せたものだ。
上流のダムから量的緩和でドルの流動性を放流しはじめたFRBバーナンキ議長。その激流は株の畑を潤し、商品の畑を潤し、そして新興国市場に流入している。そこで怒っているのが、コキントウ。米国は中国にインフレを輸出し、中国は対抗して米国にデフレ(失業)を輸出しているという米中経済戦争の構図だ。
この勝負、一見米国に分があるのだが。ドル札という弾薬を米国は無制限に増やせるのだから。でも、金曜の雇用統計を見ると、中国の反撃もかなりボディーブローで効いている。勝者なき通貨戦争。停戦に効くのは自由貿易。
あとは日経マネー買って、お読みいただきたい。とじこみ葉書で感想を送っていただければ、今後の本欄執筆の参考にしたい...。