2010年3月10日
ギリシア財政危機をきっかけに、本欄お馴染みのアリとキリギリスの譬えを使えば、アリ組のドイツが質素で倹約し過ぎるという批判が出ている。メルケルさん、もっとドイツ国民がカネ使って輸入してもらわないと困りますよ、という論旨である。キリギリス組のギリシアが派手にカネを使い過ぎたことはもちろん困ったことだが、アリ組のドイツが締まり屋であることも問題なのだ。ほどほどの倹約は美徳とされるが、ケチはいかん、というわけだ。
もうひとつのアリ組大国に中国も挙げられるが、中国人はドイツ人ほど筋金入りの倹約家とは思えない。けれど、ろくに年金も出ないし、医療福祉も不十分ときては、将来が不安で貯蓄せずにはいられない、という気持ちであろう。でも、他国から見れば、ずいぶんと中国製品を買ってあげたのだから、少しは利益還元してくれよ、と言いたくなることもたしか...。まぁ、意図せずして、米国債購入を通じて、米国人の生活水準維持には貢献しているけどね。
倹約の美徳も程度次第という「倹約のパラドックス」は、今の世界経済を見るうえで引き続き大きなポイントである。
さて、年度末が近づいてきたが、一年前を振り返ると、金市場の景色もずいぶんと変わった。
昨年の1-3月は、現物市場がリサイクルの津波に見舞われ、需給はジャブジャブ。マクロ経済的にはドル安の津波で、金先物市場は先物買いが価格を押し上げ、また売り手仕舞いの「引き波」が価格を押し下げていた。それが 一年たった今は、現物市場が1100ドル水準でも高値慣れしたアジア中東、インドの需要は旺盛。(1150ドルに近づくとさすがに鎮静化するが)。外為市場では、ユーロ安のドル高。金先物も売りが先行したが、ここにきて一巡して買いがやや増え始めた状況。
昨年はドル安ヘッジとして、金の金融商品としての側面がマーケットのテーマになったが、今年は新興国の経済回復を背景にコモディティーとしての金需要がテーマになりそう。(外為市場は、相変わらずドル、ユーロ、円の弱さ比べで、決定的な方向感が出ないからね)。
筆者は金融出身なので金の通貨的側面に注目しがちなのだが、今年は商品としての原点に戻って、需給にも、もっと目配りせねばと感じているところだ。
それから昨日は中国高官の外貨準備関連の発言として、金買いには消極的と伝えられた。「米国債に代わる対外準備資産にはなりえず」と言うのは全くその通り。なんせ、マーケットの規模が違う。ただ、「いつまでも米国債ばかり持つわけではないぜ」という牽制球の意味で金準備を増強することが充分に視野に入っていることは、筆者が現地ではっきり感じたことである。
なお、「中国高官」の発言というのも曲者で、以前には「金準備1万トン発言」なんていうのも流れたよね。人民元切り上げについても、この3日間で「中国高官」の発言のニュアンスは「容認」から「やっぱり現状維持」に変わってきている例もあるし。
ホントの意思決定者である北京の共産党、奥の院の意向は、昨日本欄でも述べたように厳重に言論統制されている。まず、絶対漏れてこない、といっていい。