豊島逸夫の手帖

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中国経済には荒療治が必要

2010年1月26日

中国で中国人をターゲットにしたビジネスモデルの開発を手伝って感じること。中国人の庶民層は堅い。おカネ使わないし、倹約して、こつこつおカネを貯める。バブルとか投機とか、外からメディアの見出しを見る限りでは、政府や銀行がばら撒いたカネが過剰流動性となって不動産市場などで暴れまわっているようなイメージを抱く。でも、実際に株とか不動産とか商品先物とかで投機的売買に手を出しているのは、ほんの一部の人たちに過ぎない。ほとんどの国民は、将来への不安を抱えて、つつましく生活している。あるいは貧困に喘いでいる。

月給数千円の人たちが、いくら小型車とはいえ車を買えるようになるのは、いつのことやらと思ってしまう。ましてや数百万から数千万円のマイホーム購入など、先の先の話に見える。エコノミスト風に言えば、国内消費主導の経済成長が巡航軌道に乗るのは、まだ時間がかかりそう。当面は、輸出がダメならということで、公共工事によるインフラ整備に経済の推進力を依存している。しかし道路、学校、空港などだけ作ってGDP成長率が二桁を回復しても、それはカンフル剤の域を出ない。

中国を歩いて目立つのが、郊外に並ぶ空家同然の高層マンション。住宅という器を作っても、そこに入居出来るだけの所得を持つ人たちが足りない。では、庶民が安心しておカネを使えるような状況になるには、どうすればよいのか。

まず、大都市に集中的に流入する出稼ぎ労働者たちが、正規の住民登録を受けられることが大前提となろう。大連から広州に出稼ぎに来ているという運転手は、正規の広州市民の資格は持てず、料理の味付けも濃い北の味が恋しいと嘆いていた。

次に、農村部では、農地を自由に売買できるとか、それを担保に融資を受けられるような制度を確立する必要がある。ここが硬直的なので、農村部に活気が出てこない。大都市で出稼ぎする家族からの仕送りに頼る生活から脱しきれない。

そして、多くの大企業が実質国営なので、労働分配率向上とか株主配当による所得還元がいっこうに進まない状況も変えねばならぬ。企業が儲かっても、ほとんど国に吸い上げられ、給料や配当アップで労働者や株主も潤うシステムにはなっていない。

このような構造的問題を解決しないことには、小手先の金融調節などで中国経済の軟着陸を図っても、その場凌ぎにしかなるまい。

と書いてきたが、エコノミスト流の「かくあるべし」の議論は別にして、最も現実的シナリオは、過熱と言われてもバブルと言われても、熱すぎるくらいの経済状況をある程度容認することではないかな。途上過程の経済成長が巡航速度を保ちつつ、スムーズな右肩上がりで進行することは稀。バブルを繰り返しながら(人間の欲は懲りないのだから)、徐々に生活水準が切り上がってゆくのではないかと感じている。荒っぽいけど、あの広大な領土を抱える多民族国家を思えば、他に選択肢が見当たらない。

2010年