2010年1月22日
昨晩、なぜウオール街が大騒ぎになったのか。まずは、その背景について。一昨日1月20日付けにこう書いた。
(引用)
景気回復期待を囃し、昨年のNY株価は3月の安値から6割以上急騰した。そこで、兆円単位のボーナスが支給されるウオール街と、失業者が溢れる街角の景況感にはかなりの開きがあるのだ。その咎がオバマに向けられている。
そこで民衆の怒りを和らげるために、金融機関に対する懲罰的課税などの措置を打ち出しているが、肝心の財政赤字に対する戦略的対応が全く見えない状況だ。結局、ノーベル平和賞は貰えたオバマはチャリティー運動のリーダーにはなれるが、未曾有の経済苦境から脱出するという「海図なき航海」を国民と共に乗り切るキャプテンにはなりきれないのでは、という不安感がマーケットにも強まってきた。
(引用終わり)
そして同日にはマサチューセッツ州の上院補欠選挙で民主党敗北。上院議席数が60%を割り込み、オバマ政権の目玉、医療改革法案の行方も渾沌としてきた。そこで間髪入れずに打ち出したのが、銀行に対する懲罰的規制の強化。
まず金融危機のときには、too big to fail=銀行が巨大化して潰すにも潰せないという状況に陥ったことの教訓として、それなら銀行の規模を制限して巨大化しないようにすればいいだろう、という発想できた。米国には以前、グラススティーガル法という法律で銀行証券分離みたいな形で銀行が大きくなりすぎないように規制していた歴史がある。その時代に戻れというような発想である。
次に、銀行は、公的資金投入やらFRBのゼロ金利政策でタダ同然のカネを大量に調達して、それを行内のヘッジファンドを通じてハイリスク商品で運用し多額の収益を上げている。もし運用に失敗して金融不安が起こっても、いずれ、お上がbailout=救済してくれるさ、という所謂モラルハザードの気配も濃厚だ。相場で儲かれば、銀行幹部は高額のボーナスを手にして、損すれば、そのツケは納税者に廻される。
これは許せんとオバマは吠えて、銀行のヘッジファンド部門のような自己勘定取引(自ら相場を張って運用する部門の売買)を規制すると切り込んできた。この発想は、選挙民の住む街角(メイン・ストリート)には受けるが、株式、外為、商品を扱うウオール街には大変なショックとなる。
自己勘定部門というのはマーケット・メーカー機能といって、例えば投資家が売りの注文を出したときに、直ぐに買い手が見つからなければ他の市場で買い手を見つけるとか、或いは自ら当座の買い手になってリスクを取り投資家の売りに答えるような役割を果たしている。そこががんじがらめに規制されると、マーケットの流動性が失われ、円滑な売買が出来なくなる怖れがあるのだ。
だから、マーケットはこのような規制を特に嫌い、リスクポジションを手仕舞って圧縮する方向に動く。そこで株も商品も全面的に売られ、マネーは豊富な流動性のプールを持つ米国債市場に雨宿りのごとく逃げ込むのだ。
そこで昨晩のNY株は急落。債券は買い。金は1100ドル割れ、プラチナは1600ドル割れ。外為市場では、米当局の規制を嫌って米ドルが売られ、ユーロも引き続きソブリンリスクを抱えているのでさほど買われず、消去法で円が買われた次第。まぁ、それでもって「円に安全性を求めるマネーが流入」とか言われても、日本人としては片腹痛いけどねぇ。
いま筆者が感じていることは、「官」の部門の存在がますます大きくなり、また政治面では オバマがかなり焦ってきたな、ということ。この問題、まだまだ尾を引きそうである。