豊島逸夫の手帖

Page823 隣人宅に火災保険かけて火事を願う?

2010年2月26日

大手投資銀行がギリシア財政不安に乗じてデリバティブにより利益を上げているとの批判が強まっている。昨晩はバーナンキFRB議長が、その件に関して意識しているとコメントした。

問題になっているデリバティブはCDS。例えば今後5年間にギリシア国債が債務不履行(デフォルト)になった場合に、投資家の損失額を補償してもらう代わりに保険料を支払う。その「保険料」(プレミアム)はマーケットの不安感により変動する。当然、ギリシア財政不安感が強まれば、プレミアムも高くなる仕組みだ。(この国債CDSのプレミアム、トップ10は、先月の日経マネー 筆者連載コラムに掲げた)。

このようなCDSを買うと、ギリシア財政不安が強まれば儲かることになるので、たとえれば「隣人の家に火災保険をかけると、火事を願うインセンティブが生じる」わけだ。いかにも人の不幸というドサクサに紛れてひと儲けというイメージなので、その倫理性が問われる。さらに、ソブリンリスク問題のマーケットへの悪影響が増幅されることにもなる。

当然、ソブリンリスクがPIGS諸国にも拡大中で、ユーロが売り込まれている欧州からは、米国当局への非難の声が強まってきた。「公的資金で救済した米系金融機関が、欧州経済を不安定化させる片棒を担いでいる」という批判である。

さて、話は変わって、トヨタ。昨日早朝にずっと公聴会のナマ中継を見ていたが、なんというか日米の言語文化の違いを見せつけられたね。まず、I apologize (謝罪します。ごめんなさい)という言葉の重みが違う。英語でapologize という言葉は非常に重い。滅多に使う言葉ではない。使ったら負け。それを豊田社長が連発していた。

例えば、米国議員がたたみかけるように「私が乗っているトヨタの車がリコールにならないと言い切れるか」などと詰め寄ると、「とにかく謝罪するが、弊社としては、今後そのようなことがないように全力を尽くすので、そういうことでご理解を賜りたい」というような日本語で返す。「そういうことで、ご理解を賜りたい」というような日本語の常套文句など、同席していた優秀な女性通訳がいくら訳しても、気持ちなど伝わらない。そして、apologizeという英訳が度々発せられると、ただただ、ごめんなさいと逃げ回っている印象しか残らない。

このような、やりとりが全米に中継されたわけで、TOYOTAというブランドのプレミアムが一気に剥落してゆくのを感じた。これはジャパンの製品のブランド・プレミアムの剥落でもある。

米国消費者の声を拾う日系テレビの街角インタビューで、TOYOTAを信じていたのにと語る米国人が、日本人のインタビュアーにI believed in you.=アナタを信じていたのに、という表現を使っていたのが印象的。ジャパンを代表するブランドという認識なのだね。

筆者も、最近、欧米人との会話で、いつのまにか日本代表みたいな立場で被告席に立っているような気分になることが多い。日本人としては、ついつい弁護してしまうのだけどね。

それから、英語堪能な日本人の米国TOYOTA社長が、つい「TOYOTA車はAmerican car=米国車ですぞ」と言ってしまったものだから、すかさず、「それは、なにかい、優秀な日本車でも、米国人の労働者が作ると、こういうことになると言いたいのかい」というニュアンスで突っ込まれる一幕もあった。やはり背後にある複雑な国民感情を感じたものだ。

さーて、たまには、金市場の話でもするか(笑)。昨晩は、IMF金売却の残り190トンを、やっぱり中国が買うのではないか、という噂がマーケットを騒がせて、価格は1100ドルの大台を回復。今後、IMF金売却が入札で定期的に行われるとすると、この手の噂がマーケットを撹乱する。入札結果が公表され、誰が買ったかということも明らかになるので、その背後にある国とか機関について様々な憶測が乱れ飛ぶのだ。これは投機筋にとって 格好の材料。過去にも、入札形式を取ると、同様の現象が見られたものだ。

なぜか、マーケットはIMF売却を必要以上に囃したがるね。今回もインドのIMF金購入がさんざん囃されたので、中央銀行サイドでは「うっかりIMFの金など買って騒がれたくない」という気持ちも働いているようだ。

当面、金のマーケットは先物市場でファンドの撤退売り、現物市場でアジア中東の下値拾い(買い)という構図。先物売り手仕舞いが一巡すれば、ジワジワ現物の買いっぱなしが効いてくる。

最後に日経マネー誌が恒例の一万人投資家調査をやるそうです。どれだけ儲かったか損したか、どのセクターにおカネ入れたか、など。個人投資家の立場からは、人の懐具合いも気になるものですよね。昨年も興味深い結果が出ましたが、今年はどんなことになるか。

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