豊島逸夫の手帖

  1. TOP
  2. 豊島逸夫の手帖
  3. バックナンバー
  4. プラチナETFについて
Page801

プラチナETFについて

2010年1月13日

NY証券取引所にプラチナETFが上場された。金ETFが機関投資家マネー流入の道を開き、金価格を上昇させたことの連想で、プラチナ価格は急騰した。

金ETFでいろいろ苦労した筆者の経験から言うと、結論は、プラチナETFはtrading vehicle (短期売買型商品)としての需要が見込まれるということ。そもそもプラチナ市場規模は金の1/20だから、価格変動率が大きい。これはプロにとって「面白い」「旨みのある」商品である。個人投機家が、やみつきになるような商品でもある。しかし、普通の個人投資家が長期に保有するには、価格変動が余りに大きすぎる。かなりのリスク耐性がないと神経性胃炎を起こしてしまいそう。それに、ある朝起きてみたら、ノーベル賞級の省プラチナ技術が開発されていた、というようなことが現実に起きうる。だから、金TFとの最大の違いは長期保有のプラチナETF購入者が少ないということだ。年金がプラチナETFを購入するという状況は考えにくい。

ETFのメリットは、原資産価格に連動して値付けされ、取引コストが安いこと。そこでネット投資家に好まれる傾向がある。ただし、心配なことは、大きく変動するプラチナ価格に、どこまで正確に連動できるかということ。その誤差が大きくなるとETF価格の信頼性そのものが失われてしまう。専門的にいえば、トラッキングエラーの問題である。原油ETFにも同様の問題が存在する。原油価格が先安、先高と、コロコロ振れるからだ。

NY証券取引所にプラチナETFが上場されてから、NY時間帯のプラチナ価格の変動は、昨晩見ていても、1時間で20ドル上がったかと思えば30ドル下がるというように、今までになく激しくなっている。まさに金魚鉢の中に鯉が入りこんだ状況なのだ。もし、この状況が続き、プラチナETFが活発に取引され、大口投機家のマネーが流入すると、プラチナは産業用素材から投機商品に様変わりする可能性がある。

金ETFを上場する際に最も苦労したことが、流動性の確保であった。マーケットメーカーと呼ばれるディーラーがETFの在庫を持ち、つねに顧客からの売買注文に応じて売値買値を提示する態勢が整備されていないと、価格が乱高下したときにETF価格が出てこないblackoutという状況が起こるのだ。だから、取引所によっては、上場条件として複数のマーケットメーカーがつねに売買値を提示することを義務づける契約書締結を要求する処もある。

その流動性が金の1/20という規模の商品をETF化することのメリットとデメリットを、投資家も業界も改めて吟味する必要があろう。ETF上場を散々囃して煽り、挙げくに投資家を離散させてしまう結果になるには余りに惜しい商品だから。

プラチナ・トレーダーとして業績を上げ、スイス銀行を辞めるとき、銀行から記念品にノーブルというプラチナ・コインをもらった筆者は、人一倍プラチナという商品に個人的思い入れがあるのだ。

さて、足元の貴金属価格は、中国の金融引き締め措置を嫌気して、他の商品含め、大きく売られた。でもね、その措置を発動させるキッカケになったのは資産バブル懸念。そして、その真の要因は人民元高。ここをいじらずに、小手先の中国流金融政策というより金融指導で乗り切ろうというには限界がある。今月号の日経マネーの筆者コラムにも書いたけれど、中国当局は多少のバブルは容認せねばならぬ状況にあるのだ。

今回の銀行準備率引き上げの材料なども、NY時間になって、改めて蒸し返されて売り材料に奉られており、かなり投機筋の恣意的な動きを感じる。要は、手仕舞い売りの後講釈に使われたのだろうね。

2010年