豊島逸夫の手帖

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芝浜

2010年3月19日

筆者の好きな古典落語。酒ばかり飲んでいる男が芝浜で大金の入っている財布を拾う。しかし拾ったはずの財布がなくなる。妻の言葉によって「財布を拾ったこと」は夢であったと諦める。男は改心して、懸命に働き、立ち直り、独立して自分の店を構えるまでに出世する。後に妻から実は妻が財布を隠していたという事の真相を知らされる、という筋である。

ギリシア支援をためらうメルケルおばさまの気持ちも、この妻に似ているかも。出来ればギリシア国民には、救済資金を融通していることを知られたくない。でも、落語の世界のように、救済資金の財布を隠すことは不可能。

とはいえ、極力、ギリシア国民の自助努力と緊縮政策で立ち直ってほしい。安易な救済という印象だけは与えたくない。かといって、緊縮政策がきつ過ぎて、心臓麻痺で死なれても(ユーロの信認にかかわることゆえ)、困るわけで。言葉は悪いが、生かさず殺さずという塩梅かな。

一方、ギリシア政府は、「やみくもに人様のお慈悲にすがる気はさらさらない。ただ、人並みの金利でおカネを融通していただければありがたい。」と言う。でも、それはマーケットが許さない。財布を隠せるのは落語の世界だけの話だ。

市場参加者は、依然、疑心暗鬼。ギリシアへの貸出金利は、そう簡単に下がらない。ギリシア債を引き受けるには、それなりの上積み金利を要求する。ギリシア政府が緊縮政策を打ち出しても、「マジ?? 本気??」。疑い始めればキリがない。

ちなみにギリシアから南欧PIGS諸国に財政危機問題が飛び火すると、最悪シナリオとしては、ドイツのユーロ離脱さえ、ないとはいえない。なんせ、ドイツ国民感情としては面白くないのだ。ギリシアは年金支給開始年齢がドイツより低い。さらにイタリアはギリシアより低い。なんで、そんな国と通貨を共有して、挙げ句に自分達のカネで救済せねばならないのか。こういう問題になると、ドイツ人はかなり頑固一徹なところがあるからね。

話題は変わって、クロマグロ禁輸否決。この問題は環境関連なれど、経済の目で見ると、クロマグロ輸出が基幹産業となっている国がマルタ。地中海の小国だが、EUの参加国でユーロを導入している。クロマグロ禁輸は死活問題のはず。近くのギリシアがなにかと世情を騒がせているおり、小国といえど経済懸念に波及したら、まずいんじゃないかな。まぁ、日本人にも、もっとトロ食べて、おカネ使って、頑張ってもらわないと、世界経済も困るわけだし。世の中、持ちつ持たれつ。

ちなみに、銀座の高級鮨屋でトロを食べまくっている中国人観光客も多いそうで。本件では、珍しく日中韓がまとまった。そして、サッカーのドーハの悲劇の場で、今回はドーハの逆転勝利となった。

2010年