豊島逸夫の手帖

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出口戦略からクイーンエリザベス2号(QE2)を模索へ

2010年7月22日

米国経済の現状は、出口戦略を議論する前に追加的景気刺激策を模索せねばならぬ。しかし、バーナンキはQE2(Quantitative Easing 2=量的緩和パート2)の明確な道を示さなかった(示せなかった)。出口戦略は雄弁に語るが、QE2となると言葉数が少ない。

米国経済を引っ張るべき豪華客船の姿が見えない。これが昨晩のバーナンキ議会証言に対するマーケットの反応であった。議会証言が始まるや、NY株はダウ100ドル以上の急落。Unusually uncertain =異例に不安定。バーナンキが経済見通しに使った言葉は、まさに異例な表現である。

それほど不安定な経済を支えるためにバーナンキはどのような秘策を用意しているのかと言えば、具体的な追加緩和策(QE2)は出ず。例のfor an extended period=長期に亘って超低金利を継続という表現をさらに緩めるとか、民間の銀行がFRBに預ける預金の金利を下げるとか、不動産関連債券の買取をまた考えるとか、その程度の言葉では市場は「やはり秘策なし」と受け止める。

かくしてマクロ経済↓ 企業業績↑

四半期決算を語るCEOたちのコメントも「ベストは尽くし、業績は改善した。しかし、unclear=不透明な経済環境の中で、企業業績の今後もunclearである」。これでは株を買えるムードにはならない。株価の牽引役となるべき金融株も、金融改革法成立により銀行業が構造不況業種に指定されたも同然である。儲け頭であったデリバティブの自己勘定取引部門やデビットカード部門などが大幅に縮小を余議なくされた。そもそも銀行の本業である貸出が伸びない。民間の資金需要は凍りついたままだ。

このような経済の米国だが、その米国が発行した借金証文は、safe haven=安全資産として買われているとバーナンキは胸を張った。米国債に優る流動性を持つ市場は他に無い。なんというか、米国は、予め避難用の巨大な池を用意したうえで、ご近所に火事を起こしそうな火遊びをしているようなものだね。バーナンキが、め組の頭みたいに纏(まとい)を振って、町民たちを池に誘導しているイメージを持った。(深夜の時代劇チャンネルで「暴れん坊将軍」見た後に、米国経済チャンネルでバーナンキ証言の生中継を見たものだから。)

なお、バーナンキは人民元にも触れ、市場の実勢から10-30%は低く設定管理されているので、実質的な民間への助成金政策のようなものと表現した。

外為市場ではドルが対ユーロで「避難通貨」として買われ、円が対ドルで「避難通貨」として買われ、そして債券市場では「避難資産」として米国債が買われ、10年債の利回りも遂に2.88%にまで下がってきた。金はリスク回避で売る人、リスク回避で買う人が交錯。

2010年