豊島逸夫の手帖

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北京からのレポート3 -中国の賃金上昇

2010年8月19日

北京の貴金属店を訪問して感じることは、顧客にいわゆる「おのぼりさん」が多いことだ。地方からの顧客は、メークとか衣服ですぐにそれと分かる。購入する宝飾も24K純金のジュエリーが大半だ。(北京っ子の女性は、純金ジュエリーは「ださい」として、イタリアのデザインぽい18金の製品を選好する)。

ここで筆者が注目することは、内陸部など地方への富の浸透である。沿海部の賃金が上昇したので企業はより賃金の安い内陸部へシフトを始めた。(賃金上昇の中国から割安なベトナムなど東南アジアへ移る動きもあったが、最近では国内の内陸部が注目されるようになった)。道路、空港など公共投資も内陸部に厚い。その結果、以前は高賃金を求めて上海や広州に出稼ぎに出ていた人達のUターン現象も見られる。

当然、内陸部の賃金水準も徐々に上がってきた。この現象は、実質的に人民元切り上げと同じ効果をもたらしている。つまり中国製品のコストアップと同時に個人の購買力が増えることで消費増大に貢献しているのだ。北京の貴金属店に押し寄せる地方からの顧客が、まさにその例であろう。国内消費が増えれば輸入も増え経常収支黒字は減少する。中国の貯蓄率も下がる。

過剰貯蓄、過小消費という中国経済の構造問題解決に資することになるだろう。輸出と財政支出依存型経済から内需主導型経済への転換も促進する。

そうはいっても、中国の個人消費は米国GDPの13%ほどに過ぎないというから、それで世界経済成長回復の救世主になるというような話ではない。しかし、中国の消費が20%増加すれば、250億ドル相当が米国製品購入に充てられるので、米国内で20万人の雇用増をもたらすという試算もある。

ただし、賃金上昇が行き過ぎると中国経済がインフレを輸出することにもなりかねない。まぁ、デフレっぽい世界経済の現在の流れでは、その心配はまだ先のことかもしれないが。

さて、昨晩は金価格が一時1230ドル以上まで急騰。夏休みの薄商いの中、値だけ飛ばしている地合いだが、FOMCの出口戦略延期宣言後、マクロ経済要因が金価格上昇を醸成していることはたしかだ。

中国工商銀行の北京分行によれば、
黄金調整基本結束 有望挑哉歴史高点
(金価格は調整を終え 史上最高値更新への挑戦も有望)

その背景として、
全球的経済不確定性一歩加速 日本第二季度GDP増速大幅下滑 美国経済数据再度疲弊
漢字見ただけで、なんとなく意味は伝わるものだね。(笑)
漢文調のほうがリズムがあって説得力あるように感じるから思わず苦笑した。

今回の北京出張で、(肝心の!)食べるほうは、美味のスイーツに巡り合ったよ。黒ゴマ、クルミ、エンドウ豆などのお汁粉。これが天然の甘みだけで実に上品。一品200円ほどでお椀タップリ。滞在中、同じ店に3回通ってしまった。

それから出張中は野菜不足になりがちなので、有難かったのはフードコートの温野菜コーナー。20種類くらいの色々な野菜が串刺しで並んでいて好きなのを選んで茹でてもらうだけ。それをスパイシーかゴマ風味のタレに付けて食する。シンプルだけど良かった。茹でると野菜の栄養分も溶け出してしまうかなとも思ったけど。

もうひとつ。出来たての暖かいビーフジャーキー専門店。辛味から甘味まで5種類の色々なサイズが並ぶ。辛味にはまって、これも3回通った。本店はシンガポールらしいけど。

そして来月早々には上海出張。本当に中国プロジェクトに深入りしてしまったよ。面白いというか、エキサイティングだね、上げ潮経済のマーケットは。その経緯については今発売中の日経マネーの連載コラムに書いた。

書いたと言えば 日経出版から出す次の本の発売が来月に決まった。ようやく。筆者のスケジュールがおして大幅に遅れてしまったけど。日経本紙、金担当の村上史佳記者にも広範囲にわたり手伝ってもらって、なんとかこぎつけた次第。

タイトルは「金に何がおきているか」(だったかな...。笑)
一日遅れの日経を読んでいたら、昨日(18日)の3面、日経出版の広告に、前作「金を通して世界を読む」が「イチオシ ロングセラー」で紹介されていて、素直に嬉しかった。

PS
本と言えば、良き後輩ブルースこと池水雄一著「ゴールドディーリングの全て 改訂版」が10月に発刊されるとのこと。お薦めの本だよ!よろしくお願いします(ペコリ)。

2010年