豊島逸夫の手帖

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量的緩和戦争にECBは参戦せず

2010年12月3日

ユーロ・レートが大荒れ。マーケットはECBに日米同様の量的緩和を期待する。しかし、ドイツ連銀ブンデス・バンクの伝統が強く残るECBは、頑として量的緩和を拒否する。ワイマール時代のハイパー・インフレを経験しているドイツは、とくにインフレには敏感な国だ。紙幣刷りまくってヘリコプターからばら撒くという(ベン・バーナンキ流)ヘリコプター・ベンの発想には、そう簡単に乗れない。国債を市中から買い取っても、その分、市中に供給された通貨は直ちに回収するオペレーションを同時に実行する。

ドイツ蔵相も"Liquidity will not solve the crisis"=流動性を供給したからといって危機が解決できるものではない、と発言。たしかに一時的な流動性危機と構造的な債務超過による信用リスク(solvency)とは異なる。

昨晩のECBトリシェ総裁発言は「ポルトガル、アイルランドの国債買い取り」を「匂わせる」ニュアンスだったのでマーケットに安心感が広がり、ユーロが買われ、投資家のリスク許容度も高まったとされた。そこでリスク・ヘッジの金は売られ、リスク・アセットのプラチナ、パラジウムは買われる展開に。

しかし、ソルベンシー(支払能力)のリスクは残ったまま。構造的問題は先送り。いずれ再燃は必至。そして今晩は、毎度お騒がせ、米国雇用統計の発表。

事前予測では楽観論が支配的なので、サプライズがあるとすれば、予想より悪かった場合。仮にそうなると、再びリスク警戒感が強まる。金価格はマーケットのリスク・プレミアムの代理変数みたいなものだから再上昇となる。

そして中国からは、現場発中国金販売最前線レポートを裏付けるかのような数字が流れる。2010年、中国の金投資需要は150トン突破の見込み(2009年は105トン)。50%増ということになる。宝飾需要も入れれば全体で軽く500トンは超える。

まぁ、「菜百(ツァイバイ)」の賑わいとか、中国工商銀行の貴金属部スタッフの忙しさから見ても、当然といえば当然の数字ではあるが。それでもまだ序の口なのだ。今後、ソロスとかポールソンが仮に保有金を売って相場が下がったら、待ってましたとばかりにチャイナマネーが下値を拾ってゆくだろうね。

なお、菜百の写真レポートの番組は、日経CNBCで今月半ばに放映の予定。

さて、欧州は大寒波らしい。ロンドンも大雪とか。ポルトガル行きも危ぶまれる状況だが、さてどうなるか。高校野球開催時に長期甲子園を離れる阪神の死のロードの心境なので、キャンセルになれば12Rのボクサーが青コーナーに戻ってラウンド間のエネルギー補給できるような時間も出来て有難いのだが...。

2010年