2011年1月19日
フィナンシャルタイムズリサーチによると、2009-2010年の中国開発銀行と中国輸出入銀行の発展途上国向け融資が1100億ドルに達した。2008年半ばから2010年半ばの期間に世銀が供与した発展途上国向け融資が1003億ドルなので、中国が世銀を抜いたことになる。
この期間は、世界金融危機後、民間金融機関が資産圧縮を迫られ貸し渋りが顕著化した時期である。その間隙を突いて、中国は膨張する外貨準備など豊富な手元流動性を武器に、中国主導の発展途上国経済成長支援を拡大していたわけだ。とくに中国が戦略的に重要と認識する分野では、意図的に世銀より有利な融資条件を提示しているという。世銀と中国は、今やライバル関係にもあるようだ。
本稿執筆中に、時あたかもコキントウ主席が米国に到着した映像が米国TVに流れている。G2の場で見せる同主席の満面の笑顔と、日本の首相との「会談」で見せる、こわばった笑顔の落差が印象的だ。
さて昨日のツイッタ―で以下の質問があった。
「最近、急に日本株は割安と騒がれていますが、何か変化があって金や商品から株に資金が流れてきたのでしょうか」。これ核心を突く質問だ。量的緩和でばら撒かれたドルの過剰流動性が新興国に流入し、新興国側はインフレ懸念が生じたので金融引き締めに動きつつある。そこで過剰流動性が、割高感のある新興国市場から米国、日本などの株式市場にUターンする動きが見え始めた。過剰流動性の循環物色である。貴金属市場でも、先行して割高感の生じた金銀から、割安感のあったプラチナやパラジウムへ循環物色が進行中だ。
とくに新興国当局によるキャリートレードを抑制する措置がこの流れに拍車をかけている。たとえばブラジルの場合、3か月先物のレアルと米ドルのスプレッドが8.75%。そこで低利の米ドルで借りてレアルで運用すればキャリートレードが成立する状況だ。これに対して、ブラジル当局は外国人のブラジル債購入に対して6%の課税を発動した。こうなるとキャリートレードは容易に成立しない。
韓国当局も同国銀行の扱う外貨建てデリバティブポジションに上限を課した。さらに同銀行の短期外貨建て債務に0.5%までの追加料率を課する方針だ。こうなると低利のドルを借りて韓国ウオンで運用するキャリートレードは激減する。このように新興国側は過剰流動性の流入を食い止めるべく、様々な「堤防」を築いているので、マネーの流れが逆流を始めたわけだ。
筆者の魚の目で見れば、ポートフォリオでオーバーウエイト気味であった新興国からアンダーウエイト気味の先進国株式に一部をリアロケーションする動きで、これが新興国を離れ 先進国に本格的に「引っ越し」することにはならない。大きな流れは変わらないと思う。貴金属市場も然り。
その金市場についてはGFMSが最新のレポートで、2010年の公的部門が買い越しに転じ、その統計数量が87トンと発表した。さらに今年は買い越しが200トンを超す見込みとのこと。
新産金量も2652トンに増えた。10年ぶりの高水準である。ようやく金高騰に対して増産の動きが数字で見えてきた。しかし、1980年代に価格上昇に反応して生産量が倍増近くなり供給過剰に陥った時代に比し、増加量は極めて限定的だ。2500トン前後から2600トン台に増えた程度である。
GFMSは今年の金価格が1600ドルをつけると予想している。