豊島逸夫の手帖

  1. TOP
  2. 豊島逸夫の手帖
  3. バックナンバー
  4. 金価格高騰 7つの理由
Page1055

金価格高騰 7つの理由

2011年5月27日

金価格は1500ドルを再突破した。依然高値圏に止まる。その背景には7つの要因がある。

1.有事の金
リビア、フクシマの国際的有事が勃発し、ビンラディン殺害も報復テロが懸念され地政学的リスクが高まる中で、リスクを回避し相対的な安全性を求めるマネーが実物資産の代表格である金に流入した。

2.インフレ
リビア緊迫は原油高を引き起こし、新興国需要の高まりは穀物などの資源価格を押し上げ、新興国ではインフレ懸念が拡散。さらに先進国にも波及しつつある。また先進国では量的緩和政策により通貨供給量が急増し、貨幣価値が希薄化することによる資産インフレの兆候も出始めた。そこでインフレヘッジとして金が買われている。

3.通貨不安
今年に入ってからの金とドルの関係を検証するとドル高の局面でも金が上がっている。ドル高ということはユーロ安、円安ということで、財政危機を抱えるユーロに対する不安感が高まり、また震災後は円への不信感も募っているのだ。そこでドル、ユーロ、円が、それぞれに構造的問題を抱え「弱さ比べ」を演じるという通貨不安が拡大する中で、金が「無国籍通貨」として浮上している。通貨の原点回帰とも云えようか。これまでのようにドル安で代替通貨として金が買われるという単純な公式が当てはまらなくなっている新たな局面を迎えているのだ。ユーロに関していえば、トレーダーたちは金利差要因でユーロを買うが、投資家たちは相対的にユーロ高になっても構造的要因によりユーロ不安を募らせている。

4.ソブリンリスク
従来安全資産の代表格であった国債が日米欧いずれの地域においても財政規律の緩みにより不安視され始めた。とくにギリシア、ポルトガル国債は債務再編、デフォルトの可能性さえちらつく。そこで安全性を求めるマネーが、国債から金、スイスフランなどへシフトしている。実際、筆者のゴールドセミナーでも最も頻繁に発せられる質問が日本国債は大丈夫か、ということなのだ。リーマン後は株から金へのシフトが顕著であったが、2011年は国債を売って金に乗り換えるというリアロケーションが目立つ。金は発行体の無い無国籍通貨ゆえ、ソブリンリスクはゼロなのだ。

5.新興国需要急増
2010年はインド、中国の二カ国が年間金生産量2600トンの6割近くを買い占めた。彼らの買いはNYのファンドが先物で売りこみ価格が急落したところを徹底的に拾ってゆく。ゆえにバーゲンハンターと言われる。今年1月も金価格が1300ドルすれすれまで急落したが、中国の個人投資家がインフレヘッジ目的で大量の現物買いを入れ、一時は現物供給不足が生じたほどの規模となり、結局NY先物売り攻勢を押し切った。この例に見られるように新興国の買いはレンジの下値をガッチリとガードする効果を持つ。中国の買い支えは「鉄板」である。中国人民銀行は利上げを繰り返しているが、金価格は上昇している。人民が金を買うという行動は金融政策への不信感の表れとも云えよう。

6.中央銀行の金買い
1990年代に金価格を250ドルにまで押し下げた最大の要因は欧州各国の中央銀行による金大量売却であったが、昨年は中央銀行部門が買い越しに転じた。これはBRICsの中国、ロシア、インドなどが膨張する外貨準備の中の米ドルの一部を金にシフトさせているためだ。さらにメキシコが93トンの公的金購入を実施した。公的セクター全体では、年間500トン程度は売却していたので、それがマイナスの売却量(=購入)に転じたことが需給バランスを逼迫させている。2011年1-3月期には公的部門の金購入は129トンに達している。

7.新産金量の伸び悩み
金価格は過去10年間で5倍以上に上昇したが、世界の金生産量は1割程度しか増えていない。もはや海底など過酷な自然環境の中にしか有望な金鉱脈が残っていないので、新規鉱山開発案件が一向に上がってこないのだ。さらに生産コストも800ドル以上となり、この10年で3倍近くに急上昇している。

以上の要因はいずれも根の深い構造的要因で、それが7つ絡み合って複合要因となっているので持続性のある上昇トレンドが形成されている。毎日、日替わりメニューの如く入れ替わり、7つの中の一つ二つから新規材料が出てきているのだ。

では下げの要因は何が考えられるだろうか。

1.
リビアの電撃的和平などが実現すれば原油価格も急落し、連れて金価格も下がるだろう。

2.
QE2が予定通り6月末に終了すれば、過剰流動性を織り込んだ相場には失望感から売りが先行するだろう。さらに金融政策の正常化から踏み込んで引き締めへの転換、利上げなど所謂出口戦略が発動されれば、金利を生まない金は売られよう。しかし景気が好転すれば物価も上昇するので、実質金利はマイナスの状況が続けば金価格の本格的下げとはならない。

3.
そこで本当に金が下がる状況は、いわゆるゴールディロックス(適温経済)の実現。熱すぎてインフレにもならず、冷えすぎてデフレにより破たんリスクが高まることもなければ、マネーは株、債券に回帰する。バーナンキが出口戦略を成功させるシナリオだ。ゆえにバーナンキを信じられば金は売りである。

4.
最後に金特有の要因としてリサイクルを挙げておかねばならない。金は腐食しないので金製品などが高値に誘われて市場にリサイクルとして還流してくる。その量は2009、2010年と、1600トン台に達し、過去最高水準。「金プラチナ買います」の幟(のぼり)が全国で見られるが、これは世界的現象なのだ。このリサイクル還流は供給増を意味するので価格上昇にブレーキをかける。比較すると原油は燃えて消えるのでリサイクルが無いためブレーキが効かず、値動きが軽く、10倍に跳ね上がったりする。その反動の下げもきつい。その点、金は値動きが重いとも云えるし、安定的とも云える。

さて、本日の日経電子版コラムマネー面では、「デフォルトを望むギリシア国民」について書きました。

それから来週5月31日にはジムロジャース対談が日経CNBCから午後9時に放映されます。

メーキング写真3枚↓

1055a.jpg1055b.jpg1055c.jpg

2011年