豊島逸夫の手帖

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ジャパン・パッシング

2011年4月21日

昨日、1500ドル近辺での新興国実需動向ヒアリングの目的でシンガポール、上海、香港の連中と話し込んだのだが、その目的からは離れて、今回の震災でいかにジャパン抜きのシステムが構築されつつあることに愕然とした。報道などで聞き及んではいたが、現地の人達の意識がそこまで進行しているとは。とにかく、ジャパン・ブランドが核汚染ブランドになってしまっている。

口先では「震災お見舞い」の同情的コメントが発せられるのだが、本音は、今こそ自国のシェアを伸ばす好機を捉えている。自由経済のマーケットであれば、企業としては至極当然の動きではあるが。

彼らの気持ちも「同情」から核に対する「不安」に転じているが、誤った知識に基づく誇張された不安感も目立つ。もし、我々が逆の立場であれば、被爆国として、それはそれで極めて強い不安感が醸成されたでがあろうが...。

このまま行くと日本は確実に貿易収支赤字国になる。為替市場で長期円高を構造的に支えてきた貿易収支黒字という前提条件が崩れるは必至。異常な円高も困るが、ジャパン・パッシングの結果としての円安も困る。でもマーケットは待ったなしだ。

日本への評価は、国民はresilient (しぶとく粘る)と称賛されるが、国の指導者たちには、けちょんけちょんである。

さて、昨晩の欧米市場は株も商品も総上げ状態。リビアもフクシマも長期化=相場の材料としては陳腐化する中で、ウズウズしてきた過剰流動性マネーのリスク意欲が戻って来たかのようだ。Risk off(リスク回避)からrisk on(リスク取り)へ。

貴金属市場でも、出遅れていたプラチナ、パラジウムが30ドル以上の急騰。金も1500ドルの高値圏を維持。ここまで急激に買われると、株も商品もちょっと気持ち悪い。まさに量的金融緩和パーティーの宴たけなわだね。これで6月末に、ホストのベンさんが壇に立ち、そろそろ予定の時間ですので、お開きにと中締めの挨拶でも始めたらどうなるのか。

なお、1500ドル水準で新興国の実需だが、さすがに買いより売り戻しが目立つ。ただ、先高感が強いので、もっぱら模様眺めである。

さて、昨日はテレビ東京のワールド・ビジネス・サテライトの飛び込み取材が入った。放映画像がこれ↓。いつものことながら、30分カメラの前で喋って、数十秒のOAです(笑)
http://www.tv-tokyo.co.jp/wbs/market/post_2002.html (現在公開されていません)

思い起こせば、最初にこの番組WBSに出た時が20年前。当時の小池百合子キャスターとスタジオ出演でした。

昨晩は、ほんの一言コメントだったので、言い足りなかった部分は今日のテレビ東京(あるいはBSジャパン)のニュース・ファインで午後3時50分くらいから5分ほどスタジオ出演で語る予定。↓
http://www.tv-tokyo.co.jp/newsfine/

それから本日発売の日経マネーでは、澤上さんや勝間さんたちと一緒に、各自からの「頑張れジャパン」メッセージが巻頭に載ってます。日本は裸一貫からやり直すという意味で、先進国ながら新興国になったつもりで。先進新興国というのもユニークでガイジン投資家にはアピールするよ、というようなことを2ページほど書きました。復興支援セミナーのことも早速写真入りで紹介。

最後に、今年正月1月3日の日経本紙「2011年のマーケットを読む」特集で述べた予測を以下に採録します。

見出し:「金 1250-1500ドルの高値圏」 豊島逸夫
2011年の金価格は高値圏を維持し、1トロイオンス1250-1500ドルを中心に推移するとみている。米国の雇用情勢、住宅市場の停滞を背景に量的緩和政策とドル不安が続き、金価格の上昇要因となるだろう。一時的に1600ドル程度まで上昇する可能性もある。米連邦準備理事会(FRB)は11年中には利上げに転じないとみており、FRBの利上げ転換を契機に金価格が本格的な調整期を迎えるのは12年前半以降と予想している。
ユーロ圏ではアイルランドやポルトガルなどの財政懸念が強まる可能性がある。欧州危機の状況次第では市場の流動性が低下し、株式や他の商品とともにいったん売られる可能性もあるが、売り一巡後は買い直されるだろう。中国など新興国の需要拡大が下値を支える。瞬間的な下値のメドは1150ドルとみている。(引用終わり)

その後のリビア、福島という突発的事態による「有事の金買い」は全く視野に入っていない。さらに、リビア発の原油高から新興国から拡散するインフレ懸念にも触れていない。その分、レンジが今からみると低めに設定されていることを反省。どうも最近、筆者が考えるほど価格が下がらないという例でもある。

2011年