豊島逸夫の手帖

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金価格下落論について

2011年10月21日

先日の日経ホールでのチャリティーセミナーでポール・ウオーカーが述べた金価格弱気論が参加者の多くにはショックだったようだ。
彼の議論は著書"金に何が起きているか"78-79ページに紹介した議論だ。
コモディティー系の見方の代表格として具体名こそ出さなかったが、「金の宝飾需要を安定株主、投資需要を浮動株主と位置づけ、安定株主が増えないと金価格の"持続的"上昇は覚束ない」と書いた部分である。当日のポールの例えでは「自転車操業のように毎年投資マネーが流入し続けないと価格は維持できない」ということになる。
対して、筆者のような通貨系は、「その程度の流入マネーの量は金融市場全体から見れば知れている」と考える。
更に、著書にも書いたように、新興国の現物購入者、先進国の年金基金、そして(著書執筆時点では顕在化していなかったが)外貨準備としての公的金購入は長期トレンドである。
それに対し、ポールは、「そういう長期金購入も、先進国債務不安や新興国経済成長あってのこと。いつまで続くわけでもなかろう」と筆者との一対一のチャットでは語る。
筆者の答えは著書80ページに書いたように、「経済正常化といっても果たしていつのことやら」。
特に現在はFRB自身が米国経済の著しい下振れリスクを認め、2013年半ばまでゼロ金利継続を明言しており、少なくともあと2年間は「経済正常化」が見込めない状況だ。
筆者とて、いつの日か経済が正常化すればヘッジ資産としての金の出番は減るから金価格は下がる、とセミナーで下げのシナリオとして言い続けてきた。
要は、それが何年後になるか。
更に、正常化すれば中国バブル破たんリスクも減るわけで、需要の7割以上を占める新興国の金買いには拍車がかかろう。80-90年代のように20年近く下落が続くようなマクロ経済環境はまず考えられない。下がるにしても暴落しっぱなしという状況は非現実的だ。ギリシャデフォルトとかポールソン金売却とか一過性の暴落は想定内である。逆に買いの機会とばかりに長期投資家は出動しよう。

足元では1600ドルすれすれまで下落中。
セミナーでも不安で不安で、なんとか上げの話を聞いて安心したいという表情が見てとれる。ツイッターの呟きにも不安感が漂う。
今は満ち潮、引き潮の引きのとき。
EUサミット控え、VIX(恐怖指数)は急騰し、マーケット全体が神経質に極みとなり、世界的には投資マネーが凍りついたままだ。

1900ドルを見たので暴落したと騒ぐが1600ドルといえば歴史的高値圏に変わりはない。特に日本では投資家が1900ドルでは列を作って現物を売りまくった。今、損したと騒いでいるのは先物の買いを抱えた投機家たちが多い。
でも、当ブログは先物系と異なり、草食系投資のブログであるから、コツコツ積み立てて、あとは忘れて(buy and forget),人生を楽しみましょう!金よりもっと大事なことがあるはずです

2011年