豊島逸夫の手帖

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風が吹けば。。。

2011年2月24日

中東民主化運動の波を利用して存在感をアピールしようと攻勢に出ているのがイラン。イラン軍艦がスエズ運河を航行する様をメディア経由で世界中に流すことで、イスラエルを挑発。イランとイスラエルの敵対関係は一触即発状態にある。

リビアは原油という武器を持った北朝鮮みたいな国。このままゆけば国内亀裂は避けられまい。サウジは病の王様が帰国して、ここは国民に歓迎されているという。(サウジの現地駐在員に言わせると、この原油価格水準では、ショート=空売りしたくなると...苦笑)。

しかし、バーレーンが民主化に妥協的態度を見せれば、サウジ東部の(虐げられてきたが、石油産業で多く働く)シーア派が黙ってはいまい。

このように見てくると、中東全体としては、方程式の変数ばかり多くて解不能の状況だ。

そこで中東産供給不安を囃して原油価格が急騰しているわけだが、現価格水準は需給から乖離している。原油が絶対的に足りないわけではない。米国国内などでは供給不安懸念は薄い。魚の目で見れば、いずれ投機マネーという新雪ドカ雪の表層雪崩が起きるは必至。

しかし虫の目で見れば、マーケットへの影響は小さくない。今回の特徴は、有事のドルが機能していないことか。

為替の世界を見れば、スイスフランが有事の通貨で買われている。(そして、ちょっぴり円も)。スイスはリビアと国交断絶状態にあることが、今回は幸いした。

2008年にスイス政府がジュネーブでカダフィの息子夫妻をホテル従業員暴行の疑いで逮捕したことが、そもそものキッカケ。報復措置として、リビア国内のスイス人ビジネスマン二名を拘束。一年に亘る両国の協議の結果、スイス側が屈辱的な謝罪声明を出す見返りとして、二人は解放された。

しかし、カダフィの怒りは治まらず、国連に、スイスをフランス、イタリア、ドイツに分割すべきなどと言いだして、スイスへの「聖戦」布告。リビア、スイスの通商関係も事実上ストップ状態となっている。その結果、リビアに対する原油供給依存率も低くなっていることが今回はマーケットに評価されることに。まったく何が幸いするか分からんもんだね。

隣国イタリアはリビア依存率が高いので、逆に苦境に立つ。ちなみに、スイスの首都ベルンでは、イタリアのリビアへの軍事協力を非難するデモ隊が、イタリア大使館前に集結する騒ぎも。

筆者はスイス銀行時代からの習性で、いまだに現地の新聞NZZにたまに目を通すのだが、ドイツ系スイス人のイタリア嫌いは知られたこと。筆者の知人のドイツ系スイス人などは、「私の秘密のキノコ採りスポットに、イタリア人たちが勝手に入り込み、キノコを根こそぎ持って行った」などと憤懣やるかたない様子。

話がそれたが、今回の中東緊迫で漁夫の利を得ている国々が他にもある。カナダ、ロシア、インドネシアなどは、原油価格急騰で思わぬ臨時収入を得ているわけだ。

そもそも原油価格急騰は日米など先進国の消費者の購買力を奪い、産油国に「富の再配分効果」をもたらす。したがって、米国では、原油急騰によるデフレ効果が懸念され、スタグフレーション(原油高による物価上昇と景気後退)のリスクさえ語られ始めた。そうなると、バーナンキがQE3(量的金融緩和第三弾)にまで手を広げるか否かも注目点。

かくして、筆者も頭の中をフル回転させてグローバルな展開をフォローしているが、あまりに変数が多過ぎて、時折オーバーフローしそうになるね。

ただ、虫の目で原油急騰ばかりに目が行き過ぎる傾向には気を付けている。原油の値動きは上にも下にも軽いことは事実だし、いつまでも急騰が続くわけがない。足元では、サウジ不安を織り込むと史上最高値更新もありうる、というような観測に振り回されている。誰にも予測のつかない今後の展開ゆえに、そのような観測に明確な反論が出来ない限り、投機筋は原油を買い上げる。

コモディティーセクター内でも、プラチナやパラジウムが売られ、原油にシフト中。金は「有事の金」買いがあるので、売られにくい。

ここまで中東問題ばかり論じてきたが、ギリシアではあまりの緊縮経済策に市民のデモが激化。米国ではウイスコンシンなどの州で、州政府が地方公務員の労働協議権はく奪などの措置に反発した抗議デモなどが多発。本欄で書いてきたmuni(地方)クライシスの背景となった地方政府債務問題が顕在化中だ。

新興国セクターでは中国インドからトルコ、台湾などに若干のリアロケーションが見られる。しかし、今週発売の日経マネー筆者連載コラムで論じていることだが、新興国から先進国へのマネーUターン現象が本格化するとは考えにくい。

混沌とした市場環境ゆえ、日本株にもマネーが分散流入してくるのも理解できる。日本の場合、最大の問題の財政赤字に切迫感が薄い。つまり、臨界点までまだ3年はあると思えば、アンダーウエイトだしアンダーバリューだし、その3年間くらい持ってみようという発想だろう。

おっと、もう時間になったので、今日はここまで。

なお、今日の写真は先日東証アローズで行われた、金関連ではご存じのメンツとの対談風景。日経ムック本に掲載される。8ページくらいに亘り、かなり濃いコンテンツ。楽しかったよ。

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2011年