2011年2月23日
中東北アフリカ政情不安の拡散する状況を見守りつつ、誰しもが思うことは、中東最大の経済国、原油埋蔵国=サウジに波及するかということだろう。そうなればオイルショック並みのマーケット騒擾となるは必至。
当面その可能性は低いと見られてきたが、ことここに至ってはサウジだけは例外と言い切れなくなっている。
人口2480万人のうち1810万人がサウジアラビア人、670万人が外国人労働者という人口構成。問題はサウジアラビア人の中に50万人の失業者がいること。海外のテレビニュースを見ていてもサウジの若者の叫びが伝わってくる。
「我が国を最大の原油国と人は言うけれど、俺たちは、なんで、こんなに貧しいのだ。家賃さえ払えない。外国人労働者たちのほうが、はるかに良い生活しているではないか。」
そもそもサウジアラビア人という意識は薄い。アラビア半島に多数の民族勢力が分散している状況。サウジアラビア国民というアイデンティティーではなく、どの部族、地方、宗教、階級か、という意識が先行する。支配者サウド家も、この複雑な対立構造を巧みに利用して中央集権政策を行ってきた。
それゆえ、国民の側にも団結意識が出にくい。大規模デモが起こりにくい状況ともいえる。しかし、人口ピラミッドで15-30歳を中心とする若年層の膨らみ、大本営発表で10%を超す失業率、インフレ懸念、そして中産階級の衰退という国内の実態は、エジプトとさほど変わりない。すでに反政府運動の兆しに支配者側も神経質に対応し始めているようだ。
異常気象で洪水に見舞われた地域では、5名のブロガーが当局に招かれ、ツイッタ―を通じて「王室からのよろしくメッセージ」を伝えるように依頼された、というようなエピソードもある。そのブロガーの一人は、改革運動を先導したとされ2年間を牢獄で過ごし、現在も旅行を禁止されている人物という。ちなみに少雨のサウジでまともな排水設備などあるはずもないから、ちょっとした雨でも洪水になるのだろう。
こういう情報を拾ってゆくと、サウジ国内にも確実に民主化の動きは芽生えていると感じる。国全体としては原油収入で豊かな国ゆえ、当座はカネばらまき戦術で懐柔を図るであろうが、国民の不満の根源を断つことにはならない。
さて足元のマーケットはリスク回避モードが鮮明。一時は売り込まれていた米国債が、ふたたび質への逃避で買われている。10年債の利回りも3.4%台にまで下がってきた。
リスク資産は売り。株は大幅安。
原油急騰だが、プラチナ、パラジウムは下げがきつい。プラチナについては本欄で発していた雪崩注意報が現実になったね。
銀の値動きは、上に下にハンパではない。流動性の小さいマーケットの特徴がモロに出ている。投機筋の空中戦だ。素人衆は近づかないほうがよろしい。
金も1410ドル近くまで急騰したところで利益確定売りが入り、1400ドル前後の水準で推移中。マネーとしての二面性を持つ金が持つ有事特需が、他の貴金属に比し、下げを限定的に留めている。
しかし、中東要因は、鳥の目で見れば歴史的出来事だが、マーケットにとっては陳腐化しやすい材料だ。金価格を今後持続的に押し上げるのは、新興国から先進国にも波及しつつあるインフレ懸念であろう。インフレ対策としての金融引き締めは後手後手に廻りがち。結局、名目金利が上がっても物価上昇率に追い付かず、実質金利がマイナスの状況が多くの国で続く。
ファンドは金融引き締め=商品売りと考えるが、国民は金融引き締め策のインフレ抑制効果を信じていない。この政策不信がインフレヘッジとしての金買いを刺激する。
銀、プラチナは先物買いが膨れ上がり、プロは利益確定の売りの機会を虎視眈々と狙っている段階だが、金はその段階を過ぎた。売り手仕舞いの波が一巡して、先々週くらいから新規買いがジワジワ入り始めた段階、NY金先物買い越し残高も再び500トンを回復してきた段階だ。雪崩警報発令中のメタルと、雪崩のピークが過ぎたメタルの違いである。