豊島逸夫の手帖

  1. TOP
  2. 豊島逸夫の手帖
  3. バックナンバー
  4. PIGS デフォルトか先送りか
Page996

PIGS デフォルトか先送りか

2011年2月2日

マーケットでは欧州財政不安が後退と伝えられる。国債入札結果も不調に終わることなく切り抜け、EU支援基金についての交渉も進行中というのがその楽観論の理由だ。しかし、実はこれからが正念場なのだ。今は嵐の前の静けさに過ぎない。

というのは、EU/IMF共同で救済資金を投入しても、ギリシアの公的債務比率は減るどころか2014年には165%に膨れ上がる状況。アイルランドは中央銀行の発表する四半期ごとのGDP予測が先期2.3%から今期は1%に下方修正。それに伴い財政削減も前期予測より倍の60億ユーロに膨れ上がった。あまりの厳しい緊縮政策に、我慢強いアイルランド国民もついに悲鳴をあげ始めている。議会は解散。2月25日に総選挙。政権交代はほぼ確実な情勢だ。

両国に共通する問題は、国債が消化できても、調達金利がとても持続的に返済可能な水準とはいえないことだ。要は、PIGSにまともな金利でカネを貸してくれるほどマーケットは甘くない。

そこで正念場というのは、この際、思い切って債務のリストラ(最近はdefaultという言葉を避け、debt restructuringという用語が使われる。結局、同じことだけどね。)に踏み切るか、EUからの施しを受け、時間を稼ぎつつ、頑張って返済計画に取り組むか。

後者のシナリオは、結局問題の先送りに過ぎず、ヨロヨロ進みながら、最後にはバッタリ倒れてしまうような結果になりかねない。先送りすれば利払いもかさみ、最終的には高いツケを払うことになる。

そうであれば早いところ債務リストラを実行すべしとの議論が出てくるわけだ。ギリシアは公的債務半額削減、アイルランドは1/3削減など。ポルトガルも債務リストラを免れまい との見方が強い(現時点では欧州救済基金の施しは断固拒否するという強い姿勢だが)。スペイン、イタリア、ベルギーは 何とかなりそう。

この強硬突破論の背景には、欧州経済の回復がある。債務削減を引き受けるEU内の勝ち組の国の体力もついてきたということだ。しかし、この方策はEU内で共通財政政策を採るに等しい。PIGSからドイツへの財政赤字負担の域内移転を容認することになるからだ。当然ドイツ国民の抵抗感は強い。

そしてマーケットが、すわデフォルト、と、一時的にパニック状態になるリスクもある。自国国債を大量に保有する国内の銀行は資本増強が必要。勝ち組に属する欧州系大銀行のダメージも小さくない。ベルギー、イタリア、スペインへの「伝染」も食い止めねばならぬ。それでも、やるなら今。早い方がいい、という議論が高まりつつあるのだ。

足元のマーケットはそれでもユーロ高。インフレ率が2.4%にまで上昇してきたので、いよいよ利上げ近し、との観測に基づく金利差要因のユーロ買いだ。

魚の目で見れば財政危機という構造要因と、虫の目で見れば金利差要因との挟間に揺れるユーロである。

2011年