2011年6月27日
あのヘッジファンドのポールソンが、SinoForest(中国の木材事業会社)という中国株で大損したというニュースが先週マーケットを駆け巡った。きっかけは香港の調査会社による、SinoForest社の木材保有生産量が水増し計上されているとの指摘。投機筋の空売り攻撃もあって、同株は急落。ポールソン&カンパニーも、同社株での損失を認めた。損失額は7億ドル程度と推定されている。
このニュースが金市場では"ポールソンがついに金を売るのではないか"という憶測を呼んだが、これはたまたま金価格が急落していたので単なる連想に過ぎないと思う。というのはポールソン自身、金大量保有の理由を聞かれ、明確に「サブプライム&世界金融危機から脱出するために米国は異常な量的緩和政策を発動しており、その副作用としてのインフレは不可避であり、それに対するヘッジとして金を戦略的に保有する」と述べているからだ。
QE2(量的金融緩和第2弾)が終了とはいえ、米国の雇用、住宅ともに指標が本格的回復軌道に乗ったとはとても言い難い。金価格が1500ドル前後まで急落しているが、これは欧米景気後退、新興国引き締め継続を嫌気したマネーが商品市場全体から流出を続け、金もそれに巻き込まれているからだ。とくにギリシア債務不安がリスク資産売りを呼び、金もこういうときはリスク資産の範疇に入り、売られている。これは経済不安のサイクルの中で時折見られる現象で、投機筋が撤退した後は長期投資家には買い場となることが多い。欧州財政問題は虫の目で売られることはあっても、魚の目で見れば金にとって買いの材料である。
1500ドル以下では新興国の実需も高まるであろう。
ギリシア問題については、本日の日経電子版コラムにも「アクロポリス神殿の売却迫る独国民感情」と題して書いた。
なお、前回IEA石油備蓄放出効果は一時的と書いたが、この一連の動きはオバマ主導による綿密な根回しが事前にあったようだ。米国は車社会ゆえ、石油価格下落は減税と同様の効果を持つ。そこで連邦債務上限法の上限に達し財政政策ももはや使えず 金融政策もドル札をめいっぱい印刷中のオバマ政権にとっては、石油備蓄協調放出が願ってもない景気浮揚政策として映ったようだ。しかし奇策はあくまで奇策だ。この点については、日経編集&論説委員の志田富雄氏が日経電子版のコモディティーviewに書いた「2度目は効かないIEAの原油押し下げ介入」の記事が参考になる。