2011年2月1日
ムバラク後のエジプトの鍵を握るのが、「軍」と、エジプト最大のイスラム系政治組織「ムスリム同胞団」=Muslim Brotherhoodの存在だ。
まず、軍という組織だが、これが実に不透明。8つのエージェント組織に分かれる。その実際の任務は他国と戦うということより、国内の治安維持に軸足が置かれてきた。しかし、米国から年間13億ドルの中東平和維持のための「思いやり予算」みたいな援助を得ているので、そこから様々な経済利権が生じた。従って、現体制の急激や暴力的破壊は望まない。
軍主導の新体制も結局、ムバラク体制と実質的に変わらない結果になる可能性がある。しかし、国民の反米感情は根強い。米国支持17%。不支持82%。米国が中東平和維持の大義名分の下でムバラク政権の強権政治を実質的に支持してきたことへの反感であろう。その国民感情を軍は力で抑え込むのだろうか。
次に、ムスリム同胞団。ムバラク体制への最大の対抗勢力として注目されてきた。しかし、今回の人民の反乱に一番驚いたのも彼らであった。ムスリム同胞団が先頭に立ったわけではないのだ。インターネットを通じて、社会の全ての階層の人達(貧者から医者、弁護士に至るまで)が自主的に立ち上がったのだから。彼らの掲げた旗はエジプト国旗であり、同胞団の旗ではなかった。しかも、同胞団の内部対立も激しい。
若年層は急進的な政治介入を求めるが、保守派は宗教的戒律の重要性を説く。例えば、女性や非イスラム教徒が大統領になることを禁じるとか、「宗教協議会」が政府政策決定権を握るなどの構想を持つ。彼らの外交姿勢はといえば、欧米から距離を置く傾向が強い。ゆえに欧米はイラン革命で反米政権が確立された苦い経験を連想する。エジプトもイランも反米国家というのは最悪のシナリオだ。
今後の成り行きとして、「軍」と「同胞団」が同床異夢ながらも組むことはあるのだろうか。まだまだ未知数が多過ぎる。2011年、中東に新たな火種が生じたことだけは間違いない。
なお、スエズ運河に関してはエジプトの「基幹産業」とも言えるので、閉鎖というシナリオは考えにくい。仮に閉鎖されても、スエズ経由の原油輸送量の相対的比率は軽い。最悪、喜望峰経由のルートもある。実際問題としては、マーケットが心配するような状況にはなりにくいと理解している。
さて、足元のマーケットはNY株も落ち着きを取り戻した。外為市場にも大きな動きは見られない。金価格は1320-30ドルのレンジで昨晩は推移した。やはり調整局面が続きそうだ。