2011年3月2日
昨晩のNY市場で金は20ドル近い急騰。1434ドルまで上がり、あっさり史上最高値を更新した。中東緊張という地政学的要因による「有事の金」買いと、原油穀物高に対する「インフレヘッジの金買い」という教科書的な金価格上昇の構図は変わっていない。
バーナンキ議会証言にサプライズはなく、予想通りQE2継続が確認されたことも過剰流動性相場継続の見方を強めた。インフレ予防のための利上げも視野に入るが、中央銀行はbehind the curve(後手後手に廻りがち)と金市場は見る。原油高から派生する可能性のあるデフレ効果を考えれば、金融政策をおいそれと引き締め方向には進めにくい市場環境だ。
さらに、アイルランドの政権交代で欧州財政不安が再燃というシナリオも要注意だ。
市場内部要因としては、NY先物買い越し残高が先週末発表の数字で23.6トン増加し、561.2トンまで戻したことも新規マネー流入を示唆する。ピークでは800トンを超え、一月には500トンを割り、手仕舞い売り一巡のあと新規買いが出やすい地合いだ。
しかも、1月には1304ドルまで急落し1300ドル割れが語られる中で急増していたショート(空売り筋)は、完膚なきまでにやられたので売りが出にくい状況だ。急落過程でweak long(腰の引けた買い越し筋)は振り落とされているので、たっぷり調整した後の反騰である。
ただし、金ETF残高は減少傾向が続き、新興国市場の現物買いも1400ドル以上ではまだ模様眺めなので、先物主導の展開。すなわち高値圏でのボラティリティー(価格変動性)は高い。(史上最高値を超えたことで、ETF市場にはモメンタム=流れに乗るタイプの投資家が再び買いに入るであろうが。)
ETF市場は安値で買った人達の利益確定売りと、新規参入組の買いが交錯している。
なお、新興国需要は足元では鎮静化しているが、振り返れば1月の急落局面で1300ドル割れを食い止めたのは中国の金買いであった。インドも8.2%という経済成長率を背景に、昨年は年間1000トン近い驚異的な金需要を記録。インドと中国で年間1600トン=年間金生産量の半分以上を買い占めている。(1月の急落から3月の急騰の過程は、著書「金に何が起きているか」の13ページと17ページに書いたことが再現された。)
釘刺しコメントとしては、繰り返しになるが、有事の金買いは一過性だ。今回は他にもインフレ懸念という大きな材料があるので大きな崩れはないだろうが。ドルとの相関も薄れている。ドル高だろうがドル安だろうが、金が上がるときは上がる。
なお、銀も高値更新。35ドルが視野に。これも繰り返しだが、白系メタルは市場の流動性が限定的だ。値動きが上にも下にも軽い。値動きが軽いということは必然的に短期売買になりがち。業界としては手数料が儲かるので薦めたくなるメタルだ。メディアでも値動きが派手なので格好の話題になる。
草食系投資家には金、肉食系投資家には銀。
プラチナは1800ドルを超えると欧州市場への大量の還流が見られる。
総じて、過剰流動性の循環物色である。