豊島逸夫の手帖

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リスク回避で売られる金、リスク分散で買われる金

2011年9月26日

日本の休日に金銀暴落。

その経緯と見通しについては三連休 中日の9月24日(土曜日)付けで日経電子版"金のつぶやき"コラムに詳述した。金価格下げのトピックは注目度高く24日の通日で全記事中 閲読ランキング1位、25日(日曜日)にも続いて11位を記録するほど。本欄読者の方々もお読みになったと想定して、ここでは、その経済的背景について書いておきたい。

ギリシャショックは、リーマンショックⅡかと聞かれるが、リーマンが青天の霹靂で勃発したのに比し、今回は市場参加者全員が既に想定している。足元の株商品総売り現象にしてもリーマンのときは発生直後に見られたが、今回はデフォルト発生前に既に始まっている。

投資家の危機回避予防措置として売られている感じだ。

リーマンショックは超金融緩和と超大型財政出動で何とか脱出できたと思われていた。しかし、その過程でリーマンショックにより顕在化した不良債権などのマーケットのリスクを中央銀行などの公的部門が引き受けて(買い上げて)、リスクを民から官へ移転したに過ぎなかったのである。国民の目に晒されないように国の金庫にしまわれていたのが、ここにきて持て余し、引き受けたほうの国の台所(=財政)に火がついたわけだ。しかも、国の財政破綻の危機に対し、火消し役となるべき財政歳出も使い果たし、金利もゼロ近くで、これ以上意味のある緩和もしようがなく、経済政策は万策尽きた状況である。ここがリーマン時と決定的に異なる。
しかも米国は ねじれ国会。欧州は遺恨を持つ国々の共同体ゆえEUとしてのコンセンサスが纏まらない。政治的対応は後手後手にまわりがち。

根は深い。長期化必至である。

経済政策が効かないと、あとは国民に直接痛みを伴う緊縮政策を強いるほかない。ギリシャの公務員3万人カットとか、年金大幅引き下げなどである。更に、ギリシャの国民性がキリギリス組からアリ組に変わることが、財布の紐を握っているメルケルにより、強く求められている。しかし民族のDNAが、そう簡単に変わるはずもない。

実態は、ギリシャ国民自身がデフォルトを望んでいる。

借金が積りに積もると、最後は借り手にアドバンテージが生じる。
時代劇でも、借金で首が廻らない長屋のクマさんが開き直り"ねぇものは ねえんだ。後は、焼くなり食うなり好きにしてくんな!"と啖呵を切るシーンが見られる。
あれこそ、今のギリシャ人の本音であろう。バーでワインを飲みつつの啖呵であるが。

デフォルトを回避に努めれば、更なる緊縮に耐えるしかない。しかし、もう我慢の限界だ。となれば、自己破産を宣言したほうが楽になる。そうなると困るのは、ドイツ、フランスのほうだ。力関係が一転する。アクロポリス神殿などギリシャが誇る世界遺産を担保に取っても、その額はしれている。

結局、デフォルトを容認して、ギリシャを切り離すしかあるまい。
しかしその後には、イタリア、スペインなどへの伝染(contagion)が待っている。

長期化は必至だ。
こうなると長期的にユーロへの更なる信認低下も必至。

足元の短期的なリスク回避のための金売りが一巡すれば、長期的にリスク分散マネーが金市場に流入するも必至であろう。いつまでもリスクから逃げ回っていても、更にリスクの連鎖にはまるだけだ。リスクを取らないリスクのほうがヤバイ。いまやリスクフリー(リスクの無い)資産など無いのだから。

今朝(9月26日月曜早朝)はいきなり売られ、1630ドル台から始まった。短期的には売りのモメンタム(勢い)が圧倒的に優勢だ。しかし、セリング クライマックスの様相も顕著。プロでも大底を拾うことなど臨むべくもないが、長期的には買いゾーンに突入した感じは強い。
米中ゴールドウオーズ(金戦争)でNYは先物売り、中国は現物買い。結果は中国の全勝であった。今回だけ例外とは考えられない。

さて、新事務所の場所が決まり、三連休は事務所立ち上げ準備に追われました。場所はベイエリアの高層マンションの一室。眼下に隅田川から浜離宮、スカイツリーなど見渡す眺望が気に入り、即決。晴れていれば、打ち合わせや雑誌のインタビューなどはテラスで出来ます。10月3日には開業できそう。

新しい肩書は豊島逸夫事務所代表。

国際金融アナリストとかのサブタイトルを考えたら、ツイッターフォロワーたちや筆者の友人たちから"怪しい!"のコール。"金融"が怪しい。"アナリスト"も怪しい。ゴールドなんてつけたら、もっと"怪しい"(笑)
メディアの人達からは、横文字の長いのだけは勘弁してくれと。それだけで5行くらい取ってしまうから。
まぁ 自然体で行きますよ。

日経ヴェリタスが、今回の独立に際して"ひとクロスワード"というページで3回連続記事を組んでくれています。昨年の本紙"人間発見"とは異なるアングルで取材。昨日発売号の第一回では"金市場が大きく変化している。米国で経験した市場の変遷が遅ればせながら日本でも起こり始めた。新たな挑戦。今動かずしていつ動くのか、そんな心境です。"と結ばれています。
まさに、そんな心境です。

ツイッターフォロワーたちからの応援twitの嵐が心に沁みました。

2011年