豊島逸夫の手帖

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中央銀行が牽引する相場

2011年12月1日

6中銀がドル資金協調供給介入、そして、中国の金融緩和(預金準備率の引き下げ)。予想より早いタイミングで中央銀行が先手を打ってきたのでサプライズ性があり、マーケットは大歓迎。
欧州銀行の資金繰り担当者はヤレヤレ。中国経済のハード・ランディング(急激な経済減速)を恐れていた商品市場もヤレヤレ。
さて問題は、このサプライズ好転にフォローがあるか。持続性があるか。

まず、欧州債務危機だが、この問題には二面性がある。
南欧諸国や銀行の債務返済能力の問題(=solvency)、そして当面の必要資金を確保するという問題(=liquidity)。
昨晩の協調資金供給は、流動性(liquidity)問題を緩和する効果があるが、solvency=果たして国や銀行が構造的な体質改善で借金を払えるような骨組みを作れるのかという問題については、先送りである。
欧州病院の動脈硬化で虚血症状の患者に、狭くなった血管(信用収縮)を広げるカテーテル処置を施し、血液は流れ始める。しかし、心臓の器質的障害という病巣に効果的なメスが入ったわけではない。
欧州各国の健康状態(財政状況)を監視できるようなシステムを導入し、同時に、ECB病院の医師団が腫瘍を抱えた患部(南欧国債)を摘出(買い取り)して、更に、IMF病院にも献血を依頼する(欧州各国への融資額拡大)というチームプレーが不可欠だ。しかし、医学界の長老メルケル女史が、なかなか首を縦に振らない。

一方、中国の金融政策対応の速さは「おお、やるじゃん」という感じ。中国経済の減速症状顕著に対して医師団が素早く処方箋を変えている。利下げまで踏み込むのはインフレ高止まりを考慮すれば、未だ出来かねる。しかし、預金準備率の引き下げだけでも、中国当局の引き締めから緩和への政策転換をマーケットに告げる意味では十分なアナウンスメント効果があった。商品市場は特に中国関連の悪材料を嫌うので、マーケットの不安感払しょくには明確な効果あり。

以上を纏めると、欧州債務問題は痛み止めが効いているうちに、なんとか抜本的治療法を施療できるか。これからのEU首脳会合に期待が寄せられるが、客観的に見れば、まず域内コンセンサスが得られるような状況ではない。昨晩のポジティブなサプライズ効果が薄れてくれば、早晩、楽観(リスク・オン)から悲観(リスク・オフ)へUターンは必定。

金市場に関して気になる材料はインド。7-9月期成長率が7%を割り込み、6.9%へ減速顕著。13回に及ぶ利上げにも関わらず、卸売物価上昇率は9%後半で高止まり。その間、利上げ連発が経済活動の停滞を生んでいる状況だ。最近、安値圏でもインド金需要がいまいち冴えないのは、このような負の所得効果のためであろう。
一方、民主主義インドと異なり、全体主義中国はトップダウンによる政策対応が早い。
この違いが直近の両国金需要の統計に如実に表れている。
通年ではインド1059.0トン中国769.7トンなのだが、2011年7-9月期に限定すると、インド203.3トン、中国191.2トンと一位二位が急接近しているのだ。

最後に、米国マクロ経済指標では、昨晩発表された民間ADP雇用統計が予想を大きく上回る206,000人増。おしなべて最近の米国経済データは改善傾向を示している。今週は米国雇用統計もあるが、ユーロよりはドルのほうがベターという価値判断が働き易く、ドル高に振れがちとなりそう。これは商品売りの材料である(昨晩はドル安となったが。)

金に関して纏めると、ドル高、インフレからディスインフレ、欧州債務危機に端を発するリスク資産売り、欧州救済のためのIMF金売却の可能性、ポールソンの金売却継続の可能性、インドの経済減速=金需要伸び悩みなどが同時進行すると価格急落場面が避けがたい。
しかし、過去最高水準の金ETF残高や、なんといっても、公的部門が通年で500トン程度の売却から、同程度の購入に転換している(その絶対差は1000トン近く)ことは大きな上げ材料。ジワリと効く。そして中国金買い復活も必至。欧州デフレモードにECBがFRB同様の量的緩和に走ると、欧州QE1と米国QE3競演のシナリオも考えられる。
短期警戒、長期強気のスタンスである。

2011年