豊島逸夫の手帖

  1. TOP
  2. 豊島逸夫の手帖
  3. バックナンバー
  4. エジプトの後は欧州財政問題に戻る気配
Page1002

エジプトの後は欧州財政問題に戻る気配

2011年2月14日

中近東民主化の動きはまだ始まったばかりと云えるが、マーケットの焦点は3月にかけて欧州問題に移る予感がする。2月2日付の「PIGS デフォルトか先送りか」でも書いたことだが、欧州財政問題は悪化の一途なのだ。市場では国債入札がとりあえず不調には終わらなかったので危機感後退とされ、話題としても陳腐化しつつあるが、とんでもない。

まずアイルランドの銀行が発行した銀行債の元本削減=ヘアーカットと呼ばれる問題。貯蓄率の高い日本では銀行の資金調達といえば個人の預金がまず普通である。しかし欧州系の銀行では、銀行が債券を発行して資金を調達する手段が重要だ。その銀行債には、劣後債(ジュニア債)と優先債(シニア債)がある。元利金の支払いが優先的に受けられる順位が後か先かという違いだ。元利金の支払いが優先的に受けられれば優先債となるが、利回りは低い。ローリスク、ローリターンである。(もちろん、投資の世界に於いて、ハイリターン、ローリスクを謳うものは要注意。)

そこでアイルランドの銀行の場合なのだが、銀行救済のために納税者負担で巨額の公的資金投入を実行するだけでは、納税者=アイルランド国民が納得せず、銀行債の保有者にも元本削減という形で痛みを共有してもらわねば納得出来ないということになった。

この考えはメルケルがドイツ国民の気持ちを代弁して唱えてきたことでもある。救済をドイツマネーばかりに頼らず、銀行債保有者にも負担させよ。銀行債を購入した人たちはリスクを取って投資している投資家なのだから、リターンに見合うリスクを負担することは当然でしょ、という議論だ。

そこでまず槍玉に上ったのが劣後債保有者。すでに元本7割削減などの苦汁を受け入れ、さらなる覚悟も強いられている。そしてここに至り優先債保有者にもヘアーカットを、という流れになってきた。しかし、優先債保有者の気持ちには、元利金の支払いが優先的に受けられるという前提の安心感があったので、これには納得できない。しかしアイルランド政府は強硬突破の方針のようだ。

もし痛みが優先債保有者にまで及ぶという前例がアイルランドで発生すれば、他の欧州系銀行の優先債保有者に大きな不安が走るは必定。アイルランドの銀行の信用回復の道もさらに遠のく。(ただでさえ現状でアイルランドの銀行は債券市場に於ける新規資金調達の窓口が事実上断たれ、ECBの緊急融資に全面的に頼っているのが現状。でもECBがいつまでも救いの手を差し伸べ続けるはずもない。)

次にポルトガル。こちらは同国発行の10年債の利回りがユーロ導入以来最高の7.35%に跳ね上がってきた。マーケットはEU首脳がポルトガル支援策をまとめるであろうという期待感で、(ハイリスク、ハイリターンの投資として7%の利回りが取れるならということで)同国国債の入札にも応じてきた。しかしポルトガル支援策の概要が一向に見えてこない。

そもそも同国国債の買い手が最近はECBが主体というのが実態だ。(多くの民間投資家は買う気が起こらない。逆にヘッジファンドは売りに走っている。)しかもEUからの同国向け緊急融資の金利が6%と、これもソブリンとしてはかなりの「高利貸し」である。果たしてポルトガルに、その金利を支払う体力があるのか、続くのか? 

当のポルトガルは、EU救済資金の「施し」を受けずに自分達だけでやっていけると、頑固受け入れを拒否の姿勢だ。施しを受けるも地獄、受けざるも地獄。これアイルランドの現地で見てきたことと全く同じなので、現地の状況が目に浮かぶ。3月にはEUサミットが開催されるので、そこでなんらかの結論が出よう。(出るかな...。)

それから足元のマーケットは原油が虫の目で見るとエジプトプレミアム剥落。金市場に関しては、今週、米国SEC登録の主要ファンドが2010年12月31日現在の主要運用資産を開示する(F13と呼ばれる書式)。期末から45日以内というルールなので現地時間2月15日、日本時間2月16日早朝に相次いでポールソンやソロスの金ETF保有残高がディスクローズされる。

さらに同日(ロンドン時間16日早朝)にはWGCから2010年10-12月期と、2010年通年の金需給統計が発表されるので、これも要チェック。

さーて、今週は春節明けで、筆者もアジア関連など再び御用繁多となる。15日午後には東京で証券関連の大型ゴールドセミナー(恵比寿ガーデンプレース)をこなして、その足で成田から深夜便でシンガポールへ。CNBC特番でジム・ロジャースの自宅で対談。キッカケは本欄で筆者が彼に対して好意的コメントしたことだった。先日の北京取材同様、毎日アジア番組担当の江連裕子キャスターも同行。18日金曜の深夜便で帰国後、その足で19日土曜日の投資戦略フェアー(総入場者3000名以上という)に成田から直行。良き後輩、池水雄一とラジオ日経の大橋ひろこキャスターとぶっつけ本番、本音ぶっちゃけ相場談義。

読者の皆さんから、ご心配も数々いただくので、健康維持には留意しているから、3連休も連日スキーと思ったが、昨日は16時間爆睡してエネルギーを蓄えておきました。ガーラ湯沢マイナス5度、シンガポール35度。温度差40度!!

昔は夜行バスでスキー場入り。朝からナイターまで滑って、ふたたび夜行バスで帰京。そのまま出勤などとやってたけど、すっかり大人になりましたよ(笑)。連休スキーも早めに切り上げ、帰宅後はホームパーティー。といっても料理上手の愛妻が指南役で、私の周りの働く女性対象の、手早く出来ておいしい自家製シュウマイとピザ作りの講習会。皆エプロン持参。これが仕事場の印象と全く違うね。

プリプリの海老シュウマイとか、宅配より遙かにうまいピザなの。私はスキー帰りで、結果を食するだけだったけど(笑)。

2011年