豊島逸夫の手帖

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ふたたび金価格史上最高値更新

2011年4月6日

今回の急騰劇の要因をまとめてみた。ドルとの連関が薄れているので、ドル安=金高というような今までの市況の法則は当てはまらない。
1.リビア
2.福島
3.ポルトガル(昨晩も格下げが出た)
4.インフレ懸念

リビア、福島は突破的にどのような地政学的リスクが出るか予測がつかない。ということは現場のトレーダー感覚はショートからは入りにくい。売りがでにくいという地合いだ。

ポルトガルの財政危機はマーケットの底流として下支え要因となっている。そして、今回の最大の問題は新興国から欧米に波及するインフレ懸念だ。

ここでは二つのインフレ懸念がある。原油等資源価格急騰によるコストプッシュ型インフレ。そしてインフレに対して中央銀行の引き締めが後手後手に廻る(behind the curve)という懸念。昨晩のFOMC議事録でも、そして頻繁な講演でも、バーナンキは原油インフレに対して、transitory(一時的)という用語を使い続けている。(FRB内の議論は割れているが、QE2の6月終了については意見が一致している模様。しかし金融緩和終了から金融引き締めへの転換の距離が長い。なお、超金融緩和にしても、for an extended period=長期継続という表現は変わっていない。)

キーワードは(毎度、同じことを繰り返して書いているが)実質金利。もう一つのワードは(金融)政策不信。今の金融政策では、結局は名目的に利上げしたところで実質金利がマイナス圏に留まるという見立てこそが金価格高値安定の背景なのだ。

先週の雇用統計が非常に良い数字で、すわQE2縮小か、出口戦略早まるかとの観測が台頭し、一時は1413ドルまで売り込まれたが結局下がりきれず。昨日も中国利上げの報道で一時下がったが、それも4ドル程度。この二つの従来であれば大きな売り要因に動じなかったところに、今回の上げの底堅さが感じられる。

対して、砂上の楼閣の危うさを感じさせるのが銀の暴騰。金の場合は10年かけて段階的に上がってきたが、銀は最近になって急にブーム的な棒上げ。まさに銀バブルの様相で中期的に逆V字型の展開を連想させる。

今週月曜日の貴金属投資に関する記事でもFPから指摘されていたが、銀の流動性は小さい。金魚鉢に鯉が入ってしまった感がある。これは劇場のシンドロームが発生しやすい状況である。つまり非常口が一つしかない劇場で誰かが「火事だぁ=売りだぁ」と叫ぶと、観衆が一斉に出口に殺到する現象だ。またハント兄弟の銀買い占め劇の教訓は、過熱した市場にポジション規制、証拠金引き上げなど取引規制が入るリスクも無視できない。(筆者はスイス銀行のトレーディングの現場でハント兄弟の銀買占め劇を、身を持って体験した。)

NY市場のプロ間の銀売買は、スポンジのようにスカスカと言われる。社内リスク管理が厳格化される中で、売買をつなぎ裁定取引機会のみを追うディーラーたち。そこに、時々、大玉の売買注文が入る度に、価格が大きく振れるのだ。この実態を知らずに、まだ(ハントの買い占めによってついた)史上最高値から見れば割安との囃しに乗って無邪気に買いまくる個人投機家の姿が痛ましい。金は草食系投資家向き。銀は肉食系投資家向き。自己性格診断をしたうえで決めるべきこと。

そしてドル円は85円台突入。景色が変わってきた。

本欄3月17日「円高の津波」を書いた早朝に76円台。為替専門家の予測には70-78円のレンジが並んでいた。そこで「この円買いは津波の引き波に見える。引き波が強ければ、後の津波も高い。今朝の76円がこれからの円の歴史的最高値として残るかもしれないと感じている」と書いた。

さらに3月22日付けでは、鳥の目から見て、協調介入が相場転換となった歴史をグラフで示した。その後、短期的金利差要因と長期的構造要因の両方から円が売られている。震災でこれまで長期的円高を支えてきた貿易収支黒字が赤字に転換する可能性さえ浮上してきた。

ただし、セミナー参加者はご存知のように筆者は長期円安論者であるものの、しかしこれで円安への基調転換とまでは言いきれない。為替は円だけで決まるものではない。ドル、ユーロが円に比し、どこまで悪材料が出て売られるか否かにもよる。まぁ、ドルユーロ円の弱さ比べ相場に於いて、円は立派に戦える(笑)ことだけは確か。

最後にジェフのセミナーインデックスはまだ生きていましたね(笑)。自分でも怖いくらい。16日の関西会場(京都)の方も、大阪や岡山などからも続々応募が集まり、場合によっては現在定員100名ですが、会場を広げるかもしれません。今年は寒さで京都の桜の開花も異常に遅いので、お花見も兼ねての参加者も多いみたい。中国人観光客がほぼ全員キャンセルで、今年、親鸞聖人750回御遠忌法要で大混雑になるはずだった京都に閑古鳥が鳴いています。ゆっくり京都を楽しめるチャンスでしょう。

2011年