豊島逸夫の手帖

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ドル札じゃぶじゃぶのはずがドル不足

2011年11月28日

FRBの量的緩和政策でドル札供給はジャブジャブなはずなのだが、欧州市場ではドルが足りない。そこでNY連銀が欧州中銀に向けて「量的緩和」というか、ドル供給のバルブを緩めている。
背景は、南欧国債を保有している欧州系銀行の経営に不安感が強まり、銀行間同士が「果たしてこの銀行にカネを貸せるか」という疑心暗鬼状態になっているからだ。そもそも欧州系の銀行は、預金者のカネを運用するというより、マネー・マーケットと呼ばれる短期資金を融通しあう市場からカネを調達して運用するというビジネス・モデルなのだ。短期で借りて長期に貸すというモデルはそもそもあまり健全とはいえない。

欧州債務危機も、国や銀行の債務返済の問題(solvencyと言われる)と、銀行のカネ繰り懸念=流動性不足(liquidity)の問題の二つの側面が顕在化している。
市場ではユーロが売り込まれ、ドル高となり、金が売られるという展開。
いざとなると、やはり、「腐っても鯛」とばかりに米ドルに逃げ込む傾向も目立つ。安全性を求めてというより流動性への逃避である。特に機関投資家は大量の売買が経常的になされる市場に安心感を覚える。個人投資家は、「自分が売りたいときに買い手がいない」リスクを強くは感じないものだが、運用規模や売買単位が大きいプロは自分の必要売買額に見合う相手がマーケットで都合良く見つかるとは限らないことをリーマン・ショックで思い知らされたのだ。

金市場は何やらリーマン・ショック直後の状況をスロー・モーションで見せつけられている感じ。まずは換金売りで下がり、一巡後に長期買いで上がるというシナリオだ。長期買いには、なんといっても中央銀行の買い、新興国の買い、そして金ETF市場での年金などの買いがある。
リーマン・ショックより、換金売りの流れは長引く様相だ。欧州周辺国から中枢国、更に米国にも欧州発債務不安が伝染する過程に時間がかかりそうである。しかし、リーマン・ショック時には見られなかった公的部門の買いが今年は年間400-500トンのオーダーになりそう。5年前までは年間500トンのオーダーで公的部門は売りに廻っていたわけだから、その差は絶対値として1000トン近い。

なお、今週は米国雇用統計発表の週。
先週、米国の感謝祭(Thanks Giving)後のブラック・フライデー(店が黒字になる日というほどの意味)で年末商戦が始まった。売上は前年比で増加基調のようだが、テレビのインタビューに「今年はこのブラック・フライデーのセールのために、ずっとおカネ貯めてきたのよ」と興奮気味に語る女性の言葉が印象的。マクロ経済統計でも確認されているけれど、普段は倹約しておカネ貯め込み、(貯蓄率上昇)、ピンポイントで使うという傾向のようだ。シャープのテレビ42型約15,000円相当というバーゲン価格では、メーカーの雇用は増えないね。

週明けの金市場はアジア時間に急騰して1700ドル台を回復したが、さて欧米市場まで持つかな。

2011年