豊島逸夫の手帖

  1. TOP
  2. 豊島逸夫の手帖
  3. バックナンバー
  4. 独仏格下げ方向で見直しの報で金急落
Page1110

独仏格下げ方向で見直しの報で金急落

2011年12月6日

日本時間早朝3時。そろそろ寝ようかとマーケットのモニター画面に目をやったら、瞬間的にビッグ・フィギュア(大台の数字)が3から2に変わっていた。1730ドルから1720ドルへ瞬間的に落ちたのだ。
見れば、FT(フィナンシャル・タイムズ紙)が、格付け会社S&P、独仏を格下げ方向で見直しの報道が流れている。ほどなく同社がEU15カ国の格付け見直しを発表した。
この件の詳細は日経電子版コラムに書いた。
やはり、欧州債務危機の悪化は当面、金の売り材料と化したことを象徴するような出来事であった。
ユーロが売られドル高となりやすいことも金にとっては下げ要因となりやすい。
なお、EU首脳会議を控え、オバマも欧州債務危機のただならぬ事態を懸念してガイトナー財務長官を欧州へ急遽派遣へ動いた。しかし、欧州サイドの態度は至って冷ややか。連邦債務上限法ギリギリまで累積財政赤字が膨張している国に、欧州援助のカネを出す余裕などあるはずもない。ただ、危機だ、頑張れのコールだけでは虚しく響くだけ。物心両面あってこそのサポートである。
頼みの中国も「白馬の騎士」のような格好良さは見られず。
カネ出してやってもいいけど、そのかわり、人権問題とかダンピング問題とかうるさく言わないで、という条件付きゆえ、おいそれと施しを受けるわけにもゆかず。
メルケル、サルコジのご両人にしても、どこまでEU参加国の間で根回ししているのか計りかねる。欧州流の根回しはまずランチ、ディナーなどのお食事会。そこで腹を割って話した後、おもむろに会議場に向かう。
問題解決の道のりは長い。
現状の金価格は、その難しさを織り込んでいる。

さて、今週は大手証券日本株キャラバン、女子会に続き、ブルームバーグ機関投資家セミナー、そして銀行、証券の社内研修会(金についての勉強会)など12日連続講演の「死のロード」真っ最中。
まぁ、ホームグラウンド離れたアウェーのゲームでも京都泊なら全く苦にならず。それにしても、金価格が上がるようでは困る業界で話すわけで、やはりアウェーの感覚だ。金の下げのシナリオを話だすと、「そうだろう、そうだろう。金が上がるなんて、所詮バブルに決まってる」と皆、納得顔になる(笑)。これが、ホームゲームの席で下がる話をすると見る見る会場の雰囲気が盛り下がってゆくのだ。
「あなたから、そんな話を聞きたくはなかった。」と言わんばかり。まぁ、独立する前から かなり言いたい放題でやってきたけど、それでも声をかけてくださるということは、聴衆がやはりポジショントーク抜きの本音を知りたがっているのだよね。仮にそれが耳の痛い話でも。
昨日は、トレーダー諸君と集まる機会があった。ディーリング・ルームのハードウェアーは様変わりだが、相場の本質は何も変わっていないことを改めて痛感。コンピュータープログラムといっても所詮過去のデータに基づくわけで、想定外のテールリスクともなれば、最後に決断するのはやはり人間。そもそも社内リスク管理が厳格化され、リスクは取らないアービトラージ(裁定取引)に特化しているのが現状。筆者の居た(チューリッヒの小鬼と言われた)トレーディングルームや、コメックス(NY取引所)のフロアを駆け回った頃はリスクを取らないのではディーラーではない。ブローカーだと叩きこまれた。個人プレーの世界であった。それが、いまやチームプレー優先。筆者の感覚ではハイテクを駆使した高校野球のような感じだ。アジア時間帯でもシンガポールや香港の支店にトレーディング機能を集結。ここでもジャパン・パッシング(passing=素通り)現象が顕著だ。

2011年