豊島逸夫の手帖

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700ドル通過 いよいよバブルか

2006年5月10日

イランがブッシュに送った書簡が一蹴され、それがバネになって一気に20ドル以上急騰、700ドルの大台を通過した。上げピッチが如何にも早い。市場は上げの要因しか見ていない。参加者の9割以上は強気に傾いている。そこで当然、バブル化したのではないか、との疑問も湧き出る。

結論から言おう。これはバブルとは言えない。

バブルというのは、市場の需給構造とか流動性に構造的欠陥が存在するなかで、買い手が、借金してまでも買い上げる状況のときに起こる現象である。

然るに、金の需給ファンダメンタルズは極めて良好である。需要は伸び、供給はそれほど増えない。金市場の流動性も世界各地に取引市場が整備され、参加者の裾野も広がり、24時間売買可能なインフラが完備している。この2点は、例えばシルバーとは根本的に異なるところだ。(ゆえに、シルバーにはバブルを感じるのだが...)

買い手の財務状況も、一時はキャリートレードと称して、低金利通貨で借金して、それを金買いにつぎこむ手法が人気化したが、利上げモードが進行する状況では、それも鎮静化している。

つまり、今の金市場を冷静に分析すれば、バブルとは言えない。

日本のバブルは、不動産市場という流動性の不十分なところに、銀行が融資を重ねた結果生じた現象であった。

ハイテクバブルは、実体のない企業の株式に投資マネーが踊った結果であった。 金という実物資産の対極にあるボロ株のバブルと言える。

株式と言えば、中央青山監査法人の処分騒動も、またもや米国と同じ道を辿っていることを痛感させられる。米国版ライブドアのエンロン粉飾決算倒産劇は、米国人投資家の信用リスクに対する警戒感を強めるきっかけとなり、今日に至る金上昇トレンドの起爆剤のひとつとなった。その一連の騒動のなかで、投資家の不安を決定的にしたのが、エンロン担当の監査法人アンダーセンもつるんでいた、という衝撃の事実であった。結局アンダーセンという全米トップ5に入る大手監査法人は解散に追い込まれることになる。

話がそれたが、今の米国で懸念されるバブルは住宅バブルだ。持ち家の価格が上がれば、誰でも気が大きくなり、feel rich=なんとなくリッチになった感じに支配され、自然に消費行動も大胆になる。この"資産効果"だけで米国GDPを1%以上押し上げる効果ありと言われるほどだ。

問題は、その住宅市場が萎む時。その兆候が出始めている。ここで一番の問題は、持ち家をローンで買っていること。そのローン金利が上がり始めているわけで、ここに正にバブルの芽が見えるのだ。そうでなくても、"出掛ける時は忘れずに"クレジットカードを持ち歩く人たちが、feel richでかなりのカード請求を溜めこんでいる状況だ。

こういうバブルっぽい市場に比較すると、今、金を買っている人達は、まず欧米の年金。年金資産の長期インフレヘッジのため金を buy and hold じっくり買い増ししている。そして、中国、インド、中東というその国々の文化の中に金がとけ込んでいる国々が、宝飾品というカタチで着々と金を買い増している。宝飾品もブランド品を買い上げるのはバブルっぽいが、ノンブランドの低付加価値商品であればしっかりした金価値の裏づけがある。発展途上国で買われる金宝飾品は正にこの類である。しかも女性の身を飾るための購入であり、buy and forget つまり買った後で金価格を気にするような買いではない。

唯一、金の世界でバブルっぽい買いはヘッジファンドかな。ここはbuy and sell. 変わり身は早い。だから、この人達が短期的に売りに回ったときが、買い時ということになる。まぁ、本欄でこんなことを書くぐらいだから、世界中のプロは同じことを考えているわけで、そうなれば、すかさず買われてしまうわけだが。

結果的に一般個人投資家で今回の相場に乗れている人は極めて少ない。本当に余裕のあるお金持ちぐらいであろう。買うのに"目をつぶって"などと一大決心が必要なサラリーマンは、なかなか手が出ない。(それでも、米国の場合は、自分の加入している年金のほうで既に金を買ってくれている場合もあるわけだが。)

とはいえ、こういうサイトをただ読んでいるだけで、指くわえて見守るだけというのも寂しいというのなら、月並みな答えだけれども、純金積立でも始めたら、とアドバイスする。月並みだけれども、相場に魔法の杖はない。これ筆者が12年間計3000回以上相場張って得た結論である。

最後に、昨日も紹介したバフェット氏が、先週末発したコメントを警告として引用しておく(意訳)。

"商品市場が人気化しているが、人々が、ジェラシーで市場に参加するようになったら要注意である。お隣が大もうけしたから、うちも、という発想で相場に手を出してはいけない。"

2006年