豊島逸夫の手帖

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北朝鮮ミサイル発射の影響は

2006年7月5日

とうとう発射された。

本稿執筆時点(7月5日朝6時)情報が錯綜している。一つ言えることは、米国メディアの関心が(前回に比し)極めて高い。独立記念日、そしてシャトル発射でお祭り気分の日を選択されたわけだから。北朝鮮側から見れば、イランだけじゃないぜ、というメッセージを伝えたつもりなのだろう。中国サイドの対応が最も注目点だ。

さて、これで有事の金買いが金市場に殺到するとは思えない。万が一、そのような事態が生じても、それに乗ってはいけない。投機的な有事の金買いを囃した金価格上昇は、打ち上げ花火みたいに派手だが、一過性に終わる。

重要なことは、中長期的に金市場を取り巻く地政学的要因が確実に一つ増えたことだ。イラク、イラン、ここにきてハマス、そして北朝鮮。それらがジワジワとボディーブローのようにマーケットに効いてくる展開になりつつあるということ。一気にノックアウトパンチ的なインパクトとはならない。

以前、600ドル回復には新たな地政学的要因などのサプライズが必要と書いた。未だ500ドル台で沈みがちなときに、金価格の再上昇に向けて、"第二弾ロケット点火準備中"とも書いた。マーケットの潮流はまさにそのような方向に動き始めている。地政学的要因は金価格長期上昇トレンドを持続させている7つの要因(※)のひとつに過ぎないが、当面500ドル台まで反落した金市場を600ドル台に引き戻す過程では主導的要因となりそうだ。

以下は筆者の独り言。

中国の調査船に沖縄近辺に不法侵入されて、竹島には韓国調査船がいよいよ派遣される状況で、稚内沖にミサイル発射されて、"アジアの中の日本"はいよいよ態度をはっきりせざるを得なくなったね。米メディアも日本の対応をしきりに気にしている。

セミナーの質疑応答などでも有事の金という言葉(筆者は好きではない表現なのだが)が、これまでは対岸の火事でピンとこなかったが、徐々に現実味を持って日本人投資家によって語られている。やっぱりこの国は黒船に大砲向けられるというような状況にならないと、国際感覚が浸透しないのかと改めて痛感。

個人投資家がポートフォリオを考えるときも、地政学的リスクヘッジを考慮せねばならない時代になったとも言える。10年後の生活がどうなるかを考えると、アジアの中の日本の出方次第で、経済情勢もとんでもなく影響を受けることは必至だから。


金価格が上がっている7つの理由。

1.原油高とインフレ懸念
70年代に二度のオイルショックを経たインフレ基調で金価格は高騰。史上最高値を記録しました。その連想から、原油など天然資源価格が上昇するいま、インフレヘッジとして金が注目されています。

2.有事の金
いまだ不透明なイラク情勢に加え、新たにイランの核保有問題、そしてパレスチナ問題が深刻化。中東地域における地政学的リスク(火種)がますます高まり「有事の金」人気が加速しています。

3.ドルからユーロ、金へ
米国の「双子の赤字」という構造問題への懸念から、世界的に投資マネーのドル離れが進行中です。まずユーロへの分散シフトを経て、現在では日本株、そして金への運用が拡大しています。

4.アジアと中東のマネー
中国とインドは歴史的にも文化的にも金選好度が高いことで知られています。また原油高で潤った中東のオイルマネーも金へのシフトを開始。世界的に金需要の伸びが見込まれています。

5.中央銀行の金購入
90年代は欧州中央銀行の金売却が金価格を押し下げました。しかし現在では、対外準備資産として金が再評価され、ロシア、中国などの国々で金購入の可能性が指摘されています。

6.信用リスクの増大と金
日本ではライブドア事件が「紙の資産」の信用リスクを顕在化させました。米国ではGMの経営不安や住宅バブル崩壊が危惧されています。「実物資産」である金への回帰が起きています。

7.年金基金の参入
金の現物に投資するETF(上場投資信託)が開発され、長期運用を旨とする欧米の年金基金などが積極的に金購入に動いています。運用資産のリスクヘッジとして金が選択されているのです。
 
2006年